◇◆◇


「余命、1万粒…?」

 千歳の担当看護師は僕を外に呼んで、そんなことを告げた。

「美雨ちゃんには、言わないでね」
「どうして…」
「そんなこと知ったら、人間らしく生きることが出来ないから。美雨ちゃんが最期まで人間らしく生きる手伝いをするのが、周りの人の役目なの」
「…」

 看護師が言っていることは理論的には正しいかもしれない。でも、それでは…

「余命1年というのは、嘘ですか」
「余命1年も本当。1万粒の涙か1年か」
「どちらかが来れば…」
「えぇ。そういうこと」

 運命は残酷だ。
 千歳はどんな状況であっても1年経ってしまえばここからいなくなってしまう。

「さっき、何があったの?美雨ちゃんの身に」
「ッ…」

 唇をかみながら千歳と速水の間にできてしまった確執を目の前の看護師に話す。千歳も速水も悪くないということをちゃんと強調し、一言一言をはっきり伝えた。
 看護師は、泣いていた。

「そっか...それもそうよね」
「はい...だから、千歳に対して何を言えばいいのか分からなくなって何も言えなくて」

 看護師曰く、さっきのことで涙の数は500粒を超えてしまっている。
 それまでにも涙を流している機会はあったらしく、残り9000粒くらいだということだ。これで、本当に1年も持つのか...?

「君は、美雨ちゃんを極力笑顔にしてあげて...」
「はい」

 何かあればということで看護師と連絡先を交換した。
 今、この看護師の名前が杠葉 茉奈(まな)というのだと知った。