千歳は搬送後すぐに点滴に繋がれた。やはり、熱中症だったらしい。

「暑さに体がついていかなかったのかもね」
「…」

 やはり、喫茶店では無理をしていたんだな。僕にも非がある。
 あの時あと数分でも屋内にいれば違う結末だったのだろうか。そう考えるだけで怖くなった。

「すみません…」
「大丈夫よ。今までそんなことしてこなかった美雨ちゃんが楽しそうだもの」
「今まで?」

 いつもはつらつとしている千歳。
 僕はそんな千歳しか知らない。時々、病気の話をしていた頃は暗い表情にはなっていたが、当たり前だ。それだとしても千歳に点滴を繋いだ看護師の表情から見ると本当に深刻な顔を看護師には見せいていたことになる。

「なんだか、美雨ちゃんが明るくなったの。きっと、貴方のおかげ」
「いえ、俺はただ...」

 ただの疑似恋人。

 それ以上でもそれ以下でもない。
 ただ、千歳の秘密を知っているだけの協力者。
 それでも、千歳にとって楽しい思い出は増やしたいとは思っている。しかし僕だけの力で看護師がびっくりするような笑顔を作り出せているとは思わない。

 そんなことを考えていた時のことだった。

「あれ...ここは...」
「千歳...」
「よかった。目が覚めたのね」
杠葉(ゆずりは)さん...?」

 目覚めてくれてホッとした。
 千歳はさっき倒れたことを覚えていなさそうだった。看護師がいることに困惑している。

「プラネタリウム...」
「また行けばいいじゃん。いまは、安静にしとけ」
「瑛翔くん...私、私...」

 横に座る僕の二の腕を持ち、すがってくる千歳。今にも泣きだしそうな顔で僕を見つめている。
 こんな千歳の顔、見たくなんてなかった。もうこれ以上、こんな顔は見たくない。