それから始業式で担任の発表と校長の話を経て、短時間のホームルームが行われる。

 それまで気付かなかったのだが、僕の隣は千歳(ちとせ) 美雨(みう)だった。

 千歳は1年の入学当初から絶世の美女として男女問わず憧れの的となっていたが、もともと体が丈夫でないらしく、ほとんど学校には来ていないという話を聞く。関わったこともすれ違ったことも無いが、噂ではよく耳にする人物だった。
 本当か僕は知らないが、入院しているという話も聞く。

 千歳の入院の話は本当らしかった。担任が千歳のところへ大事な書類を届けてくれる人を募集し始める。奇跡的、といえば不謹慎かもしれないが祖母が入院している病院と同じだった。

「丁度その病院に用事あるので僕が行きます」

 不意に、僕はそんなことを言っていた。クラスの目線が一斉にこちらへ向いて感じ悪い。

 このクラスには、いわゆる『千歳美雨ファンクラブ』の会員はいないようだ。変に思われなかったら良いのだが。

「そうか。なら、日向。頼んだ」
「はい」

 最近、祖母にも会えていない。どうせ夜のシフトまではやることもないし、家に帰りたくなかったこともあっていい時間潰しにはなるかもしれない。
 自分でそう勝手に思い込んでいた。