「行こ、もう大丈夫だから」
「ほんとか?」
「うん!無理しないから」

 不安だったが、本人がそう言っているならと喫茶店で会計を済ませて外に出る。
 蝉の声はさっきよりもうるさく、日差しも強くなった気がする。

「あとどれくらい?」
「10分もかからないよ」
「そっか。あと10分頑張って歩かないとね」

 まだ暑さに慣れていないようだったが、声には元気が戻っていた。

「ちょっと、お茶飲んでいい?」
「うん」

 彼女からは"花心"が感じられた。
 必死に花を咲かせようとする花のように、プラネタリウムに向かってしんどかったとしても進む。

 僕なら余命宣告を受けたらこんなことをしようとは思わない。

「見えてきたよ」
「あ、あれ?」
「うん。あの展望台、登れるらしい」
「やった…」

 バタッ

「ち、千歳!」

 救急車の音だけが、僕の耳に入っていた。