「あ、ごめん、待たせた?」
「いいよ。私も今来たところ」

 約束の10分前には駅に着いたのに千歳はもうここに来ていた。

 白い夏らしいワンピースを纏い、向日葵の装飾がついた麦わら帽子をかぶっている。少女漫画にでてくるような装いに少しだけドキッとさせられる。

「服、似合ってるな」
「ほんと!?」

 言葉数は少なかったかもしれないと思ったが、服を褒めると千歳はすごく喜んでいた。外出許可が出た祝いに買ってもらった服だそうだ。

 ターミナル駅まで出ると、千歳は暑さに慣れていないからか少しバテてしまっている。

「ごめんね」
「いいよ別に」

 いつもの笑顔からは想像出来ないような顔。
 汗だくの額は赤くなっている。

「日本の夏って、こんなに暑かったっけ…?」
「暑いよ。今年は特に」
「最悪」

 僕でも今年の夏はバテることもあり、ずっと病院にいる千歳がこうなるのは仕方ない。

「中、入る?」
「うん…ごめんね」

 近くにある喫茶店で休憩する。

「たどり着ける気がしないよ…」
「もうすぐ着くから大丈夫」

 憔悴しきっている千歳。
 本当は、こんな感じで外に出てはいけないんじゃないか…?無茶してやりたいことだけやっているのではないか。