次の日の学校終わり。

 僕はまた1人で千歳の病室へ向かった。
 千歳のところへ行く時にはついでに祖母の病室も訪問するため、祖母は僕が頻繁に来るようになって驚いていたが嬉しそうだった。まあ、お小遣いが欲しいという下心が数パーセントは含まれているのだが。

「千歳」
「瑛翔くん」

 最近はノックを4回すれば僕だとわかるということで毎回4回のノックで病室に入る。
 大きな声で返事をすることが面倒だということは聞いた。入ってほしくない時は僕が学校に行っている間に連絡するということだ。

「今日も元気そうだな」
「うん。基本的には元気だよ。瑛翔くんは元気じゃないの?」
「いたって普通」
「英語で言えばsosoってこと?」
「まあ、そんな感じ」

 学校で面白い話がないかということをここに来る度に言われるため、最近はそういう話題を探すようになった。

「数Aの有栖(ありす)先生って知ってる?」
「何、そのメルヘンチックな苗字」
「そこからか…」

 こんな感じの会話が楽しくて仕方がなかった。
 今では知らない世界をお互いに教え合うような仲となっていた。

「私が知っていると思ってたの?」

 話をするためだけにいつも1時間以上病室にいて…

『パイロットだけだと思ってたの?』
『えっ』
『飛行機ってパイロットさんだけで動いているんじゃないよ』

 不意に、小学生の頃の記憶が池から飛び跳ねた。この声だけが、突然。
 顔は霞がかっていてよく見えない。
 多分、結菜が生まれる前に両親と3人で海外に行った時に海外の空港でした会話。

「…ん…とくん…瑛翔、くん?」
「あ、ごめん…」

 千歳の声で我に返った僕は彼女に心配されながらも今日青木から聞いた有栖先生の話をする。青木達のクラスで起こったハプニングらしい。

「もっと面白い話ないの~?」
「そろそろいいだろ。本題」
「そうだった」

 あの声が突然浮かび上がった理由を考えながら今日の本題に駒を進めた。