「…」

 壮絶な千歳の幼少期に、僕は何も言えなかった。

「日向には美雨を笑顔にする何かがあるんだよ」
「何か?」
「それはわからないけど…」

 電車の音だけが聞こえる場所で、いつまでも千歳のことを話していた。

「日向、どうか美雨のこと、嫌いにならないでね」
「当たり前だろ」
「ならよかった」

 僕は速水と共に7両編成の電車に乗りこんだ。