「青木くんと、香坂さんで合っている?」
「え、どうして俺らの名前・・・」
「昨日日向くんから聞いたんだ」

 笑顔で2人に微笑む千歳と、その笑顔に顔が固まってしまっている2人。

 ほら、あんな噂、でたらめだろ?

「私は千歳美雨。日向くんのクラスメイト。以後、お見知りおきを」

 僕らにはない雰囲気を(まと)う千歳。同い年に対してはあまり使わなさそうな表現や少し古い小説の登場人物のような言葉遣いを好んでいる。幼少期からの御両親の教育なのかもしれないが、上品だなとは今日も思った。

「千歳、これ今日のプリント」
「わざわざ今日もありがとう」
「そういや今日速水と初めて話した」
「あー。そっか。私達、毎日メールとか電話でやり取りしてるんだ。それで日向くんの名前出したの。驚いたよね、ごめんね」

 別に、昨日のうちに千歳から速水のことは聞いていたからそこまで驚きはしなかった。
 当たり前だろう。余命宣告されている友達のもとに関わりなんて全くなかった異性が来たのだから。千歳が話さない方がおかしいし、それを聞いて速水が僕を知ろうとすることも何1つ不自然ではない。

「日向と千歳さん、昨日会ったばっかりなのにすごく仲良いね」
「私、コミュニケーションは得意な方なの」
「え、すごい!」

 コミュ力お化けの香坂が言うことではないだろうと内心で思いながら2人が千歳と仲良くできそうでよかった。

「あ、俺そろそろバイトだわ」
「そっか。今日水曜日だもんね」
「帰らないとな。千歳さん、お邪魔しました」
「じゃあ、私も今日は帰るね。美雨ちゃん、日向から連絡先聞いてもいい?」
「勿論」

 僕らは必然的に2人になった。