終礼が終わり、青木と香坂と合流する。
 千歳に今から向かうとだけ連絡を入れてスマホを強引に鞄の中にしまった。

「今日の抜き打ち終わったんだけど」
「そっちも抜き打ちテスト今日だったんだな」
「青木の場合、いつものことだろ。数学と物理に関しては」
「いや、稔は古文も駄目だよね」

 香坂が青木のことを『稔』と呼んでいることを未だに引っ掛かりを覚えながら、2人で青木をいじる。僕からしてみれば、この友情がまだ続いていることにひどく安心した。2人が主人公の物語があるならば、僕はただの”友人A”だからだ。

「2人して酷いな」
「だって、事実じゃん。1年生の頃から」
「事実と真実は違います~」
「真実?何の話?」

 青木に対しての香坂のキレのある突っ込みは1年の頃から健在だ。

「千歳さん、どんな子なんだろうね」
「そんな緊張する必要無いから」
「それは昨日あんたが千歳さんに会っているからでしょ」
「俺らは見たこともないんだからな」

 2人は彼女を見たことも無いのにあんなでたらめな噂信じていたということを思い出し、胸が痛む。学校生活において噂はある程度仕方がないことかもしれないがやはり気分は良くない。

 バスに乗り、病院の受付でここに来た趣旨を伝えると受付担当の看護師が案内してくれる。
 全然スマホを見ていなかったことを思い出し通知だけを確認したが特に大事なことは何もない。

「千歳、入るぞ」

 ドア越しの僅かに聞こえる声で返事をもらい、重たい扉を開ける。

「あ、日向くんと日向くんのお友達さんだよね」
「青木と香坂、連れてきた」
「日向くん、今日も来てくれてありがとう」

 僕らが挨拶を交わしているとき、青木と香坂は目を丸くしていた。