僕はなんで否定できなかったのか、わかっている。

 ここで否定すれば、千歳の余命のことを知られてしまいそうだったから。だけど、それで酷い噂を否定できない自分が嫌だった。

「日向?」

 青木は不思議そうに僕を見ている。なぜか、無性にその顔にイラついた。

「千歳は、そんなことするわけない」
「え、日向、急に何?」
「会ってみればわかるだろ。千歳のこと。
     なんで、根も葉もない噂信じるんだよ」

 2人は黙り込んだ。

 やってしまった、だろうか。これじゃあ、僕が千歳のことを好きでいるみたいじゃないか。だとしてもああやって言われることには黙っていたくなかった。

「とりあえず、ここ駅だから離れようよ、ね?」

 香坂に言われ、僕らは学校へ歩き出す。

 休んだだけでなんでそんな噂が出回っているのか。



「で、千歳さんに会えと?」
「本人が良いって言ってからだけどな」

 少しだけ冷静になった僕は2人に言う。さっきはあんな感じで言ったが、そういえば千歳に連絡はしていない。

「じゃあ、会ってみようよ。千歳さんに」
「そうだな」

 噂を信じた全員を変えるのは難しいかもしれないが、この2人だけは千歳のことを変に思ってほしくなかった。