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 何もない日々に“何か”が足りないと思っていた。

 友人Aは「恋」だと口にした。
 別に、それじゃなくてもいい。ただ、いつもの日常に、少しでいいから、何かしらの“刺激”が欲しい。

 変に思われるだろう。だけど、その“何か”をうまく言い表すことが出来ないのだから仕方がない。

 新学期1日目は桜が映えるような青空で心地良い春風が吹いている。小鳥のさえずりも聞こえてくる。今年の入学式は昨年や一昨年と違って写真が華やかになるのだろう。
 それに対して、僕の空模様はどんよりとしている。

 3分遅れでやって来た電車に乗り込む。たった15分の間で何かをするわけでもなく、満員電車の息苦しさにげんなりしながら自動扉の横に立った。
 遅延を謝罪するアナウンスを横で聞き流し、車内から脱出すると、向かいのホームから降りてきた友人と目が合う。彼は遠目から見てもわかるほどのハイテンションだ。

「よっ、日向(ひゅうが) 瑛翔(えいと)くん」

 意味もなく肩に手を回してダルがらみしてくる友人の青木(あおき) (みのる)。その横にいるのは香坂(こうさか)妃翠(ひすい)

 ...ハイテンションの理由はなんとなく察しがついた。

「青木、お前、香坂と付き合っただろ」

 僕がド直球にそう言ってやると、香坂の目が2倍くらい開いた。いや、驚きすぎだろ。対して青木は、少しだけ紅潮している。
 高1の頃からずっと一緒の僕達。青木と香坂が両片想いであることには何となく気付いていた。

「非リアは日向だけだね」
「うるせえわ」

 香坂にからかわれ、半分向きになって返す。
 一体、去年まで恋愛に超奥手だった2人がどうやって付き合ったというのだ。2週間会っていないだけで僕の周りの情勢、変わりすぎだろ。