「あぶなっ」


「えっ?」


 急に藤宮くんに抱き寄せられて、私は藤宮くんの胸に顔をうめた。


 以前抱きしめられたときみたいに、優しくて温かい、落ち着く匂いがした。


 心臓がどくどくとうるさい。


 身体中が熱く感じる。


「悪い、急に自転車が来たから」


「あ、う、うん…ありがとう…」


 しかし藤宮くんはすぐには離してはくれなくて、私は思わず彼を見上げてしまった。


「ふ、藤宮くん…?」


 藤宮くんは私を強く抱きしめた。


「…佐藤が俺を好きになってくれたらいいのに…」


 小さな声だったけれど、私の耳にその言葉ははっきりと届いた。


「危ないから、こっち歩いて」


「あ、うん…」


 藤宮くんは何事もなかったかのように私を歩道側に寄せる。


 藤宮くんの顔が、見られなかった。


 だって私、気がついちゃったんだ…。


 私も藤宮くんを好きだってことに。