反射的に顔を上げると、一人の男子生徒の姿が。


 それは隣の席の藤宮くんだった。


「あ、藤宮くん」


「まだ残ってたのか」


 藤宮くんはこちらにやってくると、私の手元をのぞきこんだ。


「数学のプリント?」


「あ、うん…。実は家にプリント置いてきちゃって、やり直しになっちゃったんだ」


「ふーん」


 藤宮くんは鞄に適当に教科書やノートを入れていく。


 そのまま背負って教室を出て行くんだろうなと思っていた私は、藤宮くんが席に座ったのを見て目を丸くした。


「あれ?藤宮くん、帰らないの?」


「佐藤って、数学得意?」


 急に質問が返ってきて、私は目をぱちくりさせてしまう。


 見栄を張ってもしかたないし、私は正直に答えた。


「実はあんまり得意じゃないんだ。昨日もけっこう時間かかっちゃって…」


 そのがんばったプリントは家の机の上に置き去りにされている。


 ドジな私をなげくしかないよ…。


「教えてやろうか?」


「え?」


 藤宮くんの口から飛び出てきた言葉に、私はさらにきょとんとしてしまう。


「数学。教えてやろうか?」


「え、いいの?」


「いいよ、それくらい」


「あ、ありがとう!」


 お言葉に甘えて、わからなかったら遠慮せずに藤宮くんに聞こう!


 できるだけ自分で解き進めてみる。


 けれど、やっぱりつまずく箇所がでてきてしまう。