あぁ・・・もう着いちゃったのか・・・。



いつも1人で帰る時はもっと時間かかってたはずなのに・・・。



ここでお別れ、か・・・。



「バスは・・・まだ来ないね」



「はい、まだ時間あるので」



「じゃあ、バスが来るまで一緒に待とうか」



「え?・・・はい」



寂しいな、なんて考えていると茂木さんがバスが来るまで一緒にいてくれると提案してくれた。



やばい・・・嬉しいかも・・・。



茂木さんから視線を逸らし、うつむいて口元を隠す。



私、絶対ニヤけてる。



「?どうしたの?口元押さえて・・・気分でも悪い?」



「い、いえ。なんでもないです」



私のことをのぞき込むようにして見つめてくる茂木さんに驚きながら答える。



茂木さん、いつもこうやってのぞきこんでくることが多いし、かなり顔が近いから心臓に悪い。



「・・・ちょっと顔赤いよ?熱でもあるんじゃない?」



そう言って私の頬に手を添えて、おでこ同士をくっつけてくる茂木さん。



あまりの顔の近さに、私は息を飲んだ。



近い近い近い近い!!



ゼロ距離で見つめられ、視線を泳がせる。



頬がだんだん熱を持っていくのが手に取るようにわかった。



「んー・・・熱はないみたいだね。・・・けど・・・さらに顔、赤くなっちゃったね」



ゆっくりと離れていく茂木さんは、いたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。



いつもの優しい笑顔も素敵だけど、こういう笑顔も素敵だと思ってしまう自分がいた。



「ち、ちょっとあついだけですから!!」



「暑い?寒いぐらいだと思うけど?」



「歩いたからあつくなったんです!」



自分でも苦しい言い訳に聞こえる。



だけど、茂木さんにこんな至近距離で頬に手を添えられてる状態で良い誤魔化し方を考える方が難しいだろう。



「ふふっ、そっか。俺のせいで赤くなってるのかと思ったんだけどな。・・・あ、バス来たよ」



愛おしいものを見るような目で私のことを見つめながら名残惜しそうに離れる茂木さん。



い、今の・・・私の見間違い?



すごく甘い視線だったんだけど・・・。



それに、俺のせいってどういうこと!?



いや、確かに茂木さんのせいだけど・・・!!



バスが私の目の前に停車し、ドアが開く。



茂木さんに今のことを聞こうとしたけど・・・さすがに時間が無さすぎるか。



「またね、由紀ちゃん」



「は、はい。また」



茂木さんが私に向かって手を振ってくるのに対し、ペコッと頭を下げてバスの中に入っていく。



空いている席に座り、窓の外をみる。



動かないバスの外には、まだ立ち止まったままバスを見つめている茂木さんの姿があった。



茂木さんと目が合うなり、嬉しそうに手を振ってくる。



それに小さく手を振り返していると、バスが発車した。



徐々に遠くなっていく茂木さんを見つめながら、窓に頭を当てる。



なんで、あんな愛おしそうな目で見つめてきたんだろう。



“由紀の事が好きだからじゃない?”



片付けの時に茉弘に言われた言葉を思い出す。



茂木さん、私のこと・・・好き、なのかな。



あんな反応されると、勘違いしちゃうじゃん。