「この間、お母さんの手術の付き添いをしたの。

健康診断で癌になっていたことがわかったみたいで、それで手術をすることになったの。

原稿の締切がお母さんの手術の日とかぶっちゃったから、関口女史に無理を言って先延ばしにしてもらったの」

「それは大変でしたね、お母さんはもう大丈夫なんですか?」

「うん、もう大丈夫。

それよりも、早く映画に行こうか?」

私はそう言って碧流くんの手を引いた。

「風花さん」

「何?」

碧流くんは眼鏡越しから私を見つめると、
「無理しないでくださいね」
と、言った。

「えっ?」

言われたその言葉の意味がわからなくて首を傾げた私に、
「風花さんは風花さんのままでいいですけれど、変に無理をして躰を壊さないように気をつけてくださいね」
と、碧流くんは言った。