ダンっダンっとバスケボールをつく音とシューズと床が擦れる音が重なっている。

一瀬 樹はその光景を見、己のバスケの下手さに心を打ち砕かれていた。
樹は中学からバスケをし、中学ではトップの実力を持つプレイヤーとなった。「もっと強い人と戦いたい」と意気込んで強豪である溯波高校に入学した。
沢山の経験を積んできたと思っていた樹は溯波高校のレベルの高さを前にし、圧倒的な実力を見て自分の届くような所ではなかったと、そう瞬時に理解してしまった。
早くも2年が経ち、たくさん練習を重ねても先輩たちはもっともっと先に行ってしまって、もう届きそうもない。そう思いながら自分の汗を吹いていると突然話しかけられた。
「悪い樹。ゼッケン取ってきてくれないか?」
「あ、あぁ、分かりました、」

3年の田戸先輩だった。優しさと実力を兼ね揃え、ここの溯波高校のバスケ部トップだ。
一時期この田戸先輩に嫉妬し妬んだこともあった。
なんであんなに笑って優しくできるんだ、と。

早速樹はゼッケンを取りに備品倉庫へ向かった。
ガラガラと音を立て倉庫を開ける。備品倉庫は何か変な噂があったはずだ。
確か、女子生徒がここでいじめられ、閉じ込められて孤独死をしたんだとか。その子は明るくポジティブ思考で陽気だったらしい。
樹は普段噂を耳に聞き入れないし信じないのだが、自身の部活の備品倉庫で亡くなったのが本当なのであれば神経が狂いそうになるくらい寒気が際立つ。
妙にここの備品倉庫はやな感じがするのだ。

樹はさっさとゼッケンを取って元の場所へ戻って行った。嫌な感じがあそこには充満し気味が悪い。


だが、樹はこれから備品倉庫が深く関わることを
何も知らなかった。








そして翌日。朝早く樹は登校し朝練の前に来た。
少しでも先輩と同レベルになるために。先輩達を追い抜かすために。


早速ボールを取りに備品倉庫に向かった。
まだ朝なので周りは暗く、それも1人だ。
本当情けないと改めて思い、溜息をつき五月蝿い備品倉庫のドアをガラガラ開けた。


まぁ、知らなかった樹だから、何が起こるか知らなかった。

でも、この展開を誰が想像できたのか。



「ん、うわ、暗っ、」
「はぁ…?」

樹の呆けた間抜けな声が漏れ1人の座った女子がこっちを向いた。
黒髪のツヤツヤしたロングヘアが風になびいてさらさら舞う。その女子は不思議そうな顔をしこちらの顔を覗いた。やけに顔立ちが良く、儚いような、そんな気がした。
「って、、よく見りゃあ…」
体は透け、足が無く浮遊している。実際にありえない姿を目の当たりにし、再び樹は混乱していた。
「君、私見てなにそれ、態度わるぅ」
と頬を膨らませ機嫌を損ねてそう話す。どうやら樹の呆けた間抜けな声とじっと見つめてる視線が気に障ったのかもしれない。でも…
「幽霊なんて信じらんねぇよ!!!」
「何君大きい声出して!!!」
樹の声に瞬発的に返事するようにその子は大声で樹の出した声に応えた。
残念美女というのだろうか。儚い雰囲気を出しながら根は明るい。まるで他の人格が居るみたいじゃないか。
「君、名前なに?」
いきなり顔を近付け迫られた。
「…一瀬樹」
「へえ!樹ね!樹!」
「だからそう言ってるじゃねぇか」
呆れた樹を楽しんでるかのように笑うその子。
なんなんだ一体、と樹は呆れながら少しの興味を持っていた。
「私はね〜、ここで亡くなった如月花恋でーす!!」
ダダンッと効果音の聞こえてきそうな張った声で花恋は自己紹介をした。普通亡くなった、なんて自分から言わねぇだろ、と樹は花恋にツッコミを入れ再び呆れた。