電車が目的地であるG駅に着いた。
G駅を出ると、山奥の温泉街として有名はG市は、カップルや家族連れの旅行客で賑わっている。
わたしたちはさっそく名物の飛騨牛串、温泉卵の入ったソフトクリームなどを食べ歩き、温泉が湧き出る足湯をしてあたたまった。
そのあとは神社や合掌村を観光した。
街を歩いていると、わたしは土産屋のガラス越しに懐かしいものを見つけて目がいった。
「わー、このしらさぎのお菓子だいすきなんだよね。子どもの頃いっぱい買ってほしいってお父さんにわがまま言ったなー。十箱買ってー!って泣いて怒ってさ」
「十箱!?子どもの頃の晴は食いしん坊だったんだな」と、悠が吹き出す。
「思い出すと恥ずかしいなぁ。明日、帰る前にここで買って帰ろ」
「そうだね」と、悠が微笑む。
他にも土産コーナーには、G市のマスコットであるカエルの人形がずらりと並ぶ。
「悠、みてみて。無事カエルだってこのお守り」
「可愛いじゃん。無事に帰るお守りの意味と可愛いカエルを合わせてて面白いね」
そこまで広い街ではないので半日で、だいたい有名な観光スポットは周ることができた。
もうすぐ日が暮れるので、わたしたちは予約してあった旅館に向かう。
旅館のフロントでチェックインを済ませ部屋に入る。
「あー、腹へったー」
そう言いながら部屋の隅に鞄を下ろす悠。
「たしか旅館のレストランで、今日はディナーが予約してあったよね」
わたしも自分のキャリーバックを彼の鞄のとなりに置く。
「あっ、うんうん、そうそう」と、悠がはっとした表情をする。
わたしはすぐに気づき、「旅館でディナー頼んであること忘れてたでしょ」と呆れて言った。
「えへへ」
「まったく、しっかりしてよね」
ふたりで旅行に行っても、悠はいつも宿の予約をしたことがない。
悠はそもそも何かを計画することが苦手だし、いつものらりくらりと流れに身を任せてしまう性格なのだ。
反対にわたしはちゃんと予定を決めて、無駄なく時間を使いたい性格で、どこかふたりで遠出するときは、毎回わたしが宿を取ったりデートコースを計画した。
しかし今回は、すべて彼に旅館の予約をしてもらったし、観光のデートコースも考えてきてもらった。
悠がいつか大切な人をエスコートすることが必要になるかもしれないので、今回は任せたのだ。
でも、そそっかしい悠が心配で、結局わたしもデートコースを把握して口出しまでしてしまっている。
昼間、悠が持っていた観光雑誌に付箋が貼ってあり、雑誌がボロボロになっているのが見えた。今日のために何度も観光雑誌を開いて計画を立てたようだ。
「ディナーの場所は二階か」と部屋を出てから、わたしが旅館の地図を見て歩き出すと「え、ちがうよ。こっちじゃね?」と、悠が反対方向を指差す。
「あれ、こっちがエレベーターじゃなかった?」と、わたしが訊くと「晴は方向音痴ってやつだよね」と、悠がにやにやした。
たしかに思い当たる節がある。
毎回こういう旅館の出入り口をまちがえたり、レンタカーを停めた場所がわからなくなるのはわたしだ。
「でも悠だって、毎回、計画性がないでしょ」と、わたしはむきになって言い返す。
「だから、ふたりでひとつでちょうどいいんだって。俺たちお互いの苦手なとこ補ってるじゃん」と、満面の笑みの悠を「はいはい」と、わたしはあしらった。
悠の言った通り、反対に歩くとエレベーターがあった。どうやらわたしは方向音痴だと自覚せざる得ない。
わたしたちはレストランの入り口で受付をすると、案内された席に座った。
「な、なんかこういうレストランって普段行かないから緊張するよな」と、悠がそわそわしている。
「いつまでも子どもみたいなこと言ってないでよ。こういう場所でもスマートにエスコートできるくらいなってよね」
「努力するよ。しっかし高級感がすごいよな。床には赤い絨毯、天井にはあれ、あれなんだっけ?えーっとシンデレラじゃなくてー」
「シャンデリアね」
「そう!シャンデリアっ」
そんないつものやりとりをしていたら、店員がディナーのコース料理の説明をしにきた。
一通り話し終えると、最後にドリンクを何にするか、わたしたちに訊いた。
「わたしは烏龍茶でお願いします」
「え?晴、お酒飲まないの?こういうとき、いつもなら梅酒とか飲むのに」と、悠が怪訝な顔をする。
悠は少し何か考えたあと、「じゃあ、俺も烏龍茶で」と注文した。
「かしこまりました」と、頭を下げてから店員が戻っていく。
「わたしに合わせなくても、悠はお酒飲めばよかったのに」
「晴が飲まないならいいや。俺お酒強くないし」
料理のコースは冬野菜の前菜、ジャガイモのスープ、飛騨牛ステーキと順番に出てきた。
料理は美味しいのだけど、わたしはひとつ気になることがある。
それは悠の食べ方だ。
「もーっ、悠っ!」
「なんだよ晴」
「なんでフォークやナイフやスプーンが、何本も横に並んで置いてあるか知ってる?」
「そりゃ食べるためだろ」と、自信満々に子どものように答える悠。
はぁ、わたしたちはあまりこういう高級な店には行ってこなかったし、彼が知らないのも無理ないか。
わたしはそう自分を納得させる。
でも彼女といるときにこういったテーブルマナーも、悠はこの先のために知っておかなければならない。
「じゃあ、どういう順番で使うか知ってる?」と、わたしが訊くと「え?こんなん順番あんの?好きに使えばいいかと思った」と悠が焦り出す。
「端っこから使うのよ。悠はさっきデザートのスプーンでスープ飲んでたもんね」
「えー、知ってたなら教えてよぉ晴ぅ〜」
悠の顔が赤くなる。
「これくらい知ってると思ったし、知らなくてもスプーンの大きさとか見ればどれに使えばいいかわかるでしょ」
「そういうのが、俺わかんないんだって。でも教えてくれてありがとう、へへへ」
「なんで笑ってんのよ。悠は今は恥ずかしがるとこでしょ」
「晴がこうやって、いつも教えてくれるのが嬉しいんだ。だから、ありがとう。あー、晴に恩返ししたいなぁ。でも俺より晴はなんでもできちゃうじゃん。だから俺は絶対に晴を幸せにできる男になるって決めてんだ」
悠のその言葉に嬉しい気持ちと、悲しい気持ちが同時に押し寄せ、わたしはなんとも言えない気分になった。
「そういうのはテーブルマナーくらい覚えてから言ってよね」と、とりあえず誤魔化す。
「はーい」と、悠が笑う。
G駅を出ると、山奥の温泉街として有名はG市は、カップルや家族連れの旅行客で賑わっている。
わたしたちはさっそく名物の飛騨牛串、温泉卵の入ったソフトクリームなどを食べ歩き、温泉が湧き出る足湯をしてあたたまった。
そのあとは神社や合掌村を観光した。
街を歩いていると、わたしは土産屋のガラス越しに懐かしいものを見つけて目がいった。
「わー、このしらさぎのお菓子だいすきなんだよね。子どもの頃いっぱい買ってほしいってお父さんにわがまま言ったなー。十箱買ってー!って泣いて怒ってさ」
「十箱!?子どもの頃の晴は食いしん坊だったんだな」と、悠が吹き出す。
「思い出すと恥ずかしいなぁ。明日、帰る前にここで買って帰ろ」
「そうだね」と、悠が微笑む。
他にも土産コーナーには、G市のマスコットであるカエルの人形がずらりと並ぶ。
「悠、みてみて。無事カエルだってこのお守り」
「可愛いじゃん。無事に帰るお守りの意味と可愛いカエルを合わせてて面白いね」
そこまで広い街ではないので半日で、だいたい有名な観光スポットは周ることができた。
もうすぐ日が暮れるので、わたしたちは予約してあった旅館に向かう。
旅館のフロントでチェックインを済ませ部屋に入る。
「あー、腹へったー」
そう言いながら部屋の隅に鞄を下ろす悠。
「たしか旅館のレストランで、今日はディナーが予約してあったよね」
わたしも自分のキャリーバックを彼の鞄のとなりに置く。
「あっ、うんうん、そうそう」と、悠がはっとした表情をする。
わたしはすぐに気づき、「旅館でディナー頼んであること忘れてたでしょ」と呆れて言った。
「えへへ」
「まったく、しっかりしてよね」
ふたりで旅行に行っても、悠はいつも宿の予約をしたことがない。
悠はそもそも何かを計画することが苦手だし、いつものらりくらりと流れに身を任せてしまう性格なのだ。
反対にわたしはちゃんと予定を決めて、無駄なく時間を使いたい性格で、どこかふたりで遠出するときは、毎回わたしが宿を取ったりデートコースを計画した。
しかし今回は、すべて彼に旅館の予約をしてもらったし、観光のデートコースも考えてきてもらった。
悠がいつか大切な人をエスコートすることが必要になるかもしれないので、今回は任せたのだ。
でも、そそっかしい悠が心配で、結局わたしもデートコースを把握して口出しまでしてしまっている。
昼間、悠が持っていた観光雑誌に付箋が貼ってあり、雑誌がボロボロになっているのが見えた。今日のために何度も観光雑誌を開いて計画を立てたようだ。
「ディナーの場所は二階か」と部屋を出てから、わたしが旅館の地図を見て歩き出すと「え、ちがうよ。こっちじゃね?」と、悠が反対方向を指差す。
「あれ、こっちがエレベーターじゃなかった?」と、わたしが訊くと「晴は方向音痴ってやつだよね」と、悠がにやにやした。
たしかに思い当たる節がある。
毎回こういう旅館の出入り口をまちがえたり、レンタカーを停めた場所がわからなくなるのはわたしだ。
「でも悠だって、毎回、計画性がないでしょ」と、わたしはむきになって言い返す。
「だから、ふたりでひとつでちょうどいいんだって。俺たちお互いの苦手なとこ補ってるじゃん」と、満面の笑みの悠を「はいはい」と、わたしはあしらった。
悠の言った通り、反対に歩くとエレベーターがあった。どうやらわたしは方向音痴だと自覚せざる得ない。
わたしたちはレストランの入り口で受付をすると、案内された席に座った。
「な、なんかこういうレストランって普段行かないから緊張するよな」と、悠がそわそわしている。
「いつまでも子どもみたいなこと言ってないでよ。こういう場所でもスマートにエスコートできるくらいなってよね」
「努力するよ。しっかし高級感がすごいよな。床には赤い絨毯、天井にはあれ、あれなんだっけ?えーっとシンデレラじゃなくてー」
「シャンデリアね」
「そう!シャンデリアっ」
そんないつものやりとりをしていたら、店員がディナーのコース料理の説明をしにきた。
一通り話し終えると、最後にドリンクを何にするか、わたしたちに訊いた。
「わたしは烏龍茶でお願いします」
「え?晴、お酒飲まないの?こういうとき、いつもなら梅酒とか飲むのに」と、悠が怪訝な顔をする。
悠は少し何か考えたあと、「じゃあ、俺も烏龍茶で」と注文した。
「かしこまりました」と、頭を下げてから店員が戻っていく。
「わたしに合わせなくても、悠はお酒飲めばよかったのに」
「晴が飲まないならいいや。俺お酒強くないし」
料理のコースは冬野菜の前菜、ジャガイモのスープ、飛騨牛ステーキと順番に出てきた。
料理は美味しいのだけど、わたしはひとつ気になることがある。
それは悠の食べ方だ。
「もーっ、悠っ!」
「なんだよ晴」
「なんでフォークやナイフやスプーンが、何本も横に並んで置いてあるか知ってる?」
「そりゃ食べるためだろ」と、自信満々に子どものように答える悠。
はぁ、わたしたちはあまりこういう高級な店には行ってこなかったし、彼が知らないのも無理ないか。
わたしはそう自分を納得させる。
でも彼女といるときにこういったテーブルマナーも、悠はこの先のために知っておかなければならない。
「じゃあ、どういう順番で使うか知ってる?」と、わたしが訊くと「え?こんなん順番あんの?好きに使えばいいかと思った」と悠が焦り出す。
「端っこから使うのよ。悠はさっきデザートのスプーンでスープ飲んでたもんね」
「えー、知ってたなら教えてよぉ晴ぅ〜」
悠の顔が赤くなる。
「これくらい知ってると思ったし、知らなくてもスプーンの大きさとか見ればどれに使えばいいかわかるでしょ」
「そういうのが、俺わかんないんだって。でも教えてくれてありがとう、へへへ」
「なんで笑ってんのよ。悠は今は恥ずかしがるとこでしょ」
「晴がこうやって、いつも教えてくれるのが嬉しいんだ。だから、ありがとう。あー、晴に恩返ししたいなぁ。でも俺より晴はなんでもできちゃうじゃん。だから俺は絶対に晴を幸せにできる男になるって決めてんだ」
悠のその言葉に嬉しい気持ちと、悲しい気持ちが同時に押し寄せ、わたしはなんとも言えない気分になった。
「そういうのはテーブルマナーくらい覚えてから言ってよね」と、とりあえず誤魔化す。
「はーい」と、悠が笑う。