「まあ、誤って招いてしまったこちらにも責任がある。しばらく俺の客人として城に滞在するといい。せいぜい暇つぶしくらいにはなれよ」
やったー!!
手心のある王子様でよかった。
予想された“城の外に捨てられて路頭に迷うルート”は回避したようだ。
「ありがとうございます!!不束者ですが、よろしくお願いします!!」
「言っておくが、飽きたらすぐに追い出す。それまでに新しい雇い先を見つけることだな」
「えっ、あ……はい!」
いや、それより元の世界に帰してくれないの? と思ったけど、機嫌を損ねてやっぱり追い出すと言われても困るのでその場では口をつぐんだ。
「さて、じゃあお待ちかね。次は貴女だねぇ」
縦ロール美少女はわたしの件が一件落着したと見て、OLさんに目を向けた。
「え。私ですか」
子猫を撫でながらすっかり傍観者になっていたOLさんは、突然話を振られて困惑した様子だ。
王子様も玉座から腰をあげ、OLさんのもとへ近づいていく。
「お前、名は」
「……恵梨です。柳田恵梨」
「エリ。お前は聖女としてこの世界に召喚された。共にこの国を救ってくれ」
おおお……。
いつかに読んだ異世界もの小説のワンシーンそのままのような光景に息をのんだ。
美しい王子様とスーツ姿のOLの、世界を越えた出逢い。
これが本当に小説で自分が読者だったなら、これ以上ないほど心躍るボーイミーツガールだ。
だけどこれは間違いなく現実で、わたしは“おまけ"の分際で。
極め付けは、お約束の。
「はあ……? 意味がわかりません。それよりいい加減、家に帰してくれませんか。明日も仕事なんですよ」
「申し訳ないが、元の世界に帰る方法はない。それに、明日からお前の仕事は聖女としてこの国で生きることだ」
元の世界に帰れない…。
予想はしていた。物語の中ではお約束だ。だけど繰り返すがこれは現実。
実感なんてないけれど、血の気がサーッと引いていくのがわかった。