「このギルヴァント王国は、ビストリア大陸の南西に位置する国だ。女神アネスが遣わせた春の妖精と初代国王が、共に豊かな土地を作ったことがはじまりとされている」


いきなりわからない言葉のオンパレードだったが、エイデン様はそのまま話し続ける。


「穏やかで温暖な気候と、肥沃な土地。そして女神アネスの加護を伝えるとされる異世界からの乙女……聖女の力で、この国は繁栄してきた」

「え……」


エイデン様の言葉に、恵梨さんが驚いた様子で声を出した。


「待ってください。じゃあ、私の他にも聖女がいるんですか?」

「いる。……いや、正確には『いた』だな。エリの前に聖女がいたのは30年ほど前だ」

「……その方は、亡くなったんですか?」

「ああ。聖女は一時代に一人しか存在しない。すぐに次の聖女を召喚したいところだが、召喚には莫大な魔力が必要になる。ようやく溜めた魔力で30年ぶりに召喚したのがお前というわけだ」

「……………」


恵梨さんは言葉を失っている。
自分が死なないと次の聖女はやってこない。つまり、恵梨さんは死ぬまで聖女を務めなくてはならないと暗に示されてしまったからだ。

ふむ。この国において聖女は代替わり制。ほぼ常に存在するものなんだな。国を豊かに維持するための、いわばインフラの一つ。

じゃあ、昨日の言葉は……?


「……昨日、殿下は恵梨さんに『この国を救ってくれ』と仰ってましたけど、それはつまり今代の聖女として国を良くしてくれということですか?」


わたしが口を挟んでよいものか迷ったけど、尋ねたらエイデン様はすんなりと答えてくれた。


「まあそうだが、『救ってくれ』というのはそのままの意味だ。今この国は、未曾有の危機に瀕している」


未曾有の危機?

ただならぬ言葉に恵梨さんと顔を見合わせる。


「先ほど俺は、『穏やかで温暖な気候』と言ったな。本来この国は、ほぼ年中暖かで過ごしやすい気候の国なんだ。だが今は……ウィル」

「はい」


ウィル様は部屋の窓の方へ近づくと、閉められたカーテンをシャッと開けた。