「……私の顔に何か?」

「んーん。昨日よりは顔色いいから、よかったーって思っただけだよぉ」

「……昨日は、その、気が動転していたので」


無邪気な笑顔を向けられた恵梨さんは、気まずそうに目を逸らした。確かに昨日に比べて表情も柔らかい気がする。

だけどまだシャーロットさんに笑顔を向ける気持ちにはなれないようだ。彼女は異世界に恵梨さんを召喚した張本人なんだから、そう簡単に心を開けないのだろう。


シャーロットさんはそんな恵梨さんの心の内をわかっているのか、優しい微笑みのまま。


「だぁいじょぶだよエリちー。ちょっとずつここに慣れてくれたらいいからねぇ」

「別に私は……って、『エリちー』……?」


予想外のあだ名に恵梨さんが困惑した顔をする。

「そぉだよ、エリちー。可愛いでしょぉ?我ながらあだ名のセンスよすぎぃ」

「……未知のセンスです……」

「で、そっちの踊り子ちゃんが〜……ええと、名前なんだっけぇ?」


言われて、そういえば名乗っていなかったことを思い出した。


「えっと……」

「ハルナさん、でしたよね?」


名乗ろうとしたら、恵梨さんがわたしを見て言った。


「昨日、そうおっしゃってませんでしたか? 苗字だったかお名前だったか……すみません、そこは覚えてないんですけど」

「……あ、言いました言いました!」


“春凪らん"

わたしの芸名だ。そういえばその場のノリで昨日言ったな……。


『あなたの心に春爛漫♡春凪らんです』


わたしの十八番の自己紹介である。自分のアイドルイメージと名前を覚えてもらうために一生懸命考えた。我ながら語呂が良くて気に入っている。

芸名だから、もちろん本名は全く別にあるんだけど……。