ある日のお昼寝の時間。みんな遊び疲れて爆睡し静まり帰った保育園の部屋の中、隣に寝ていた理玖の布団から「ぐすっ……」と鼻をすする様な音が聞こえてきた。
不思議に思った優里が理玖の布団をそっとめくると、顔を真っ赤にした理玖が丸まって蹲り涙をポロポロと流している。
優里は慌てて同じ布団に入り込むと、小さな声で問いかけた。
「りっくん? どうしたの?」
「うっ……ぐす……けんたろうくんが、ボクのこと女みたいだって……。いつも泣いてばかりでぜんぜん男らしくないからほんとに男なのかって服をぬがされそうになって……」
「けんたろうくん……あのいつもいじわるしてくる子だね。わかった。わたしにまかせて」
「え?」
涙目のまま、きょとんと不思議そうな顔をした理玖を宥めてなんとか寝かしつけると、優里は頭の中で計画を立て始めた。
「けんたろうくん、ちょっといい?」
お昼寝の時間が終わり、午後の遊びの時間になったとき、優里は砂場で数人の男の子たちとお山をつくって遊んでいた岩橋健太郎に声をかけた。
「なんだよ?」
少し吊り目がちな瞳が優里のことを不審そうに見る。優里は彼のことをキッと睨むと、思いっきり手を引き、その頬を引っ叩いた。
思いっきりと言っても四歳児のため、たいした衝撃はなかっただろう。それでも突然叩かれたことに驚き、頬を押さえて呆然としている彼を睨みつけながら、優里は精一杯声を張り上げた。
「けんたろうくん、りっくんにひどいこと言ったでしょ。これ以上りっくんにいじわるしたら、わたしがゆるさないから!」
そう言い、腰に手を当ててフンと胸を張る。
健太郎はその言葉でやっと優里がなぜこんな行動に出たのか理解したようで、みるみる剣呑な顔になった。
「あいつをかばうのか? あんな女みたいなの、おかしいじゃん」
「そんなことない! りっくんはだれよりもやさしくて、いい子なんだよ! そう言うけんたろうくんこそ、みんなでとりかこんでりっくんをいじめるなんて、ヒキョーだよ。ぜんぜん男らしくない!」
「うるさいな!」
ドンっと両手で肩を押されて体が大きくふらつく。健太郎もそこまで強く押したつもりはなかったのか、優里が砂場に尻餅をついた瞬間にしまった、という顔をして固まる。
するとそこで、中で待っていたはずの理玖が今にも泣き出しそうな顔をしながらこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「ゆうちゃん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだけど……りっくん、どうしてお外にきちゃったの? 中でまっててって言ったのに」
「だって……だって、ゆうちゃんがしんぱいで……。ボクのせいでケガしちゃったよね。ごめんね、ごめんね」
理玖は優里の擦りむいて血が滲んだ手の平を見つめながら、わーんと大きな声で泣き出す。
優里はジンジンする手の痛みを堪えながら、「わたしはだいじょぶだよ。だいじょうぶだからね」と理玖の頭を撫で続けた。