――ガラッ
「何してるの?」
勢いよく教室の扉が開き、背筋が凍るような低い声がした。
優里に触れる直前だった女子生徒の手もビクッと震えて動きがとまる。
優里と目の前の女子生徒が同時に入り口のほうを振り返ると、無表情のまま立ち尽くす理玖の姿があった。
「立花くん! あのね、この女が……」
「この女ってゆうちゃんのこと?」
「へ?」
いつもと声のトーンが違うことに気づいたのだろう。女子生徒が気の抜けたような小さな声を出した。
その間にそばへと近寄っていた理玖は、優里のほうへ伸ばされていた女子生徒の腕を掴んだ。
「この手は何? まさかゆうちゃんに手を出そうとしてたわけ?」
「ひっ……! 痛いいたいっ!」
かなり強く掴まれているのだろう、掴んだ彼の指先が腕に食い込んでいる。
女子生徒が「やめて!」と叫びながらなんとか腕を引き抜こうとしているが、理玖の腕は微動だにせず、彼の瞳も冷たく鋭く光っている。
女子生徒が恐怖からか血の気が引いたような色をしてカタカタと小刻みに震え出したのを見て、ハッとなった優里は慌てて割って入る。
「りっくん、やめて! 腕が折れちゃうよ」
「ゆうちゃんに手を出そうとした腕なんて折れればいい」
理玖がなんてことないようなトーンで発した言葉に優里は絶句する。
感情が一気に高ぶり、頭に血が上るのを感じた。
「りっくん、抵抗できないのわかってて暴力を振るうなんて……最低。そんなの優しい昔のりっくんじゃないよ!」
その言葉に、鋭い視線をしていた理玖の表情がみるみる怪訝なものへと変わり、その手からもようやく力が抜ける。
入学式の日に見た理玖の姿。
あれ以降目にすることのなかった彼の恐ろしい姿は、勘違いだったのかもしれないとやっと思えるようになっていたのに。
それなのに、目の前で女子生徒の腕をあざができるほど強く握りしめているのは、紛れもなく優里の幼馴染その人である。
優里の頭を優しく撫でてくれたその手が、他の人へ躊躇なく暴力を振るう様を目の当たりにして、どうしようもないほどのやるせなさに襲われた。
「そんなひどいことをする人じゃなかったのに」
冷静さを欠いているのはわかっていた。理玖が自分のためにこんなにも怒ってくれているのだということも。
でも、止められない。
「そんなりっくんなんて、……りっくんなんか、大っ嫌い!!」
「ゆうちゃん!」
肩で息をしながら言い切った優里は、自分の発言に後悔したかのように顔を青ざめさせると、理玖の顔を見ることができずに顔を伏せたまま教室を飛び出す。
理玖は優里の名前を呼んだものの、衝撃を受けて呆然としているようで後を追ってくることはなかった。
「何してるの?」
勢いよく教室の扉が開き、背筋が凍るような低い声がした。
優里に触れる直前だった女子生徒の手もビクッと震えて動きがとまる。
優里と目の前の女子生徒が同時に入り口のほうを振り返ると、無表情のまま立ち尽くす理玖の姿があった。
「立花くん! あのね、この女が……」
「この女ってゆうちゃんのこと?」
「へ?」
いつもと声のトーンが違うことに気づいたのだろう。女子生徒が気の抜けたような小さな声を出した。
その間にそばへと近寄っていた理玖は、優里のほうへ伸ばされていた女子生徒の腕を掴んだ。
「この手は何? まさかゆうちゃんに手を出そうとしてたわけ?」
「ひっ……! 痛いいたいっ!」
かなり強く掴まれているのだろう、掴んだ彼の指先が腕に食い込んでいる。
女子生徒が「やめて!」と叫びながらなんとか腕を引き抜こうとしているが、理玖の腕は微動だにせず、彼の瞳も冷たく鋭く光っている。
女子生徒が恐怖からか血の気が引いたような色をしてカタカタと小刻みに震え出したのを見て、ハッとなった優里は慌てて割って入る。
「りっくん、やめて! 腕が折れちゃうよ」
「ゆうちゃんに手を出そうとした腕なんて折れればいい」
理玖がなんてことないようなトーンで発した言葉に優里は絶句する。
感情が一気に高ぶり、頭に血が上るのを感じた。
「りっくん、抵抗できないのわかってて暴力を振るうなんて……最低。そんなの優しい昔のりっくんじゃないよ!」
その言葉に、鋭い視線をしていた理玖の表情がみるみる怪訝なものへと変わり、その手からもようやく力が抜ける。
入学式の日に見た理玖の姿。
あれ以降目にすることのなかった彼の恐ろしい姿は、勘違いだったのかもしれないとやっと思えるようになっていたのに。
それなのに、目の前で女子生徒の腕をあざができるほど強く握りしめているのは、紛れもなく優里の幼馴染その人である。
優里の頭を優しく撫でてくれたその手が、他の人へ躊躇なく暴力を振るう様を目の当たりにして、どうしようもないほどのやるせなさに襲われた。
「そんなひどいことをする人じゃなかったのに」
冷静さを欠いているのはわかっていた。理玖が自分のためにこんなにも怒ってくれているのだということも。
でも、止められない。
「そんなりっくんなんて、……りっくんなんか、大っ嫌い!!」
「ゆうちゃん!」
肩で息をしながら言い切った優里は、自分の発言に後悔したかのように顔を青ざめさせると、理玖の顔を見ることができずに顔を伏せたまま教室を飛び出す。
理玖は優里の名前を呼んだものの、衝撃を受けて呆然としているようで後を追ってくることはなかった。