痛みのピークが過ぎるのを待って昨日から出社し始めた。まだ腫れてるし痣もえぐいことになっているが、分け目を変えて前髪で目立たないようにしている。

 だが今回の件はもの凄い勢いで噂となっており、またしばらくは落ち着かない日々になりそうで憂鬱だ。

「それにしても亜子さん水くさいですよね?田中さんと付き合ってたなら教えてくれたらいいのにー」

 普段は外でランチをとってる伊東さんと君島さんが、私が秘書室でひとりになるのを気にしてランチを持ち込み一緒に食べてくれていた。

「色々相談にのってもらってたのに黙っててごめんなさい。絶対父にばれたくなくて。でも本当は相談したいことがたくさんあるの‥‥もう父に隠す必要もないしまた話を聞いてくれる?」

「もちろんですよー」

「亜子さんうぶだから、田中さんのテクニックに翻弄されちゃってるんじゃないですかー?」

「そうなんです‥‥まだ全然、そんなに進展はしてないんですけどね?それなのに‥‥なんていうか‥‥エロい?」

「ちょっと亜子さん、昼からそんな話、超ー盛り上がっちゃうじゃないですかー」

「いや!別に、本当、全然そんな話じゃないんですよ!?」

「これは一度飲みに行った方がいいかもしれませんね?怪我が治ったらすぐ行きましょう」

 こうして人とランチをするのは久し振りだった。やっぱりひとりで食べるより凄くいい。

 そんなことをしみじみと考えながらお弁当をつついていたら、バン!と大きな音を立てて扉が開いた。

「亜子ちゃん!」

 驚いて振り返ると、息を切らした様子の田中さんがいる。

「え?田中さん?」

 入ってきた勢いのまま田中さんが近づいてきて、座っている私の目の前に跪き手を重ねた。

「亜子ちゃん、俺は亜子ちゃんのことが好きだから、絶対に離れたくない。亜子ちゃんを誰かに譲るつもりもない‥‥」

「え?え!?」

 田中さんが‥‥私のこと‥‥好きって言った?

「亜子ちゃん、好きだよ。愛してる。亜子ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。だから俺と結婚して欲しい。お願い、うんと言って?」

 この瞬間、私は雷に打たれた。その衝撃で涙が溢れて止められず、言葉も発することができなくて‥‥私はただ、必死で頷いた。

「亜子ちゃん!ありがとう!大好きだ!」

 田中さんに抱きしめられた。何がどうしてこうなってるのかは全然わからないけど、これが夢なら覚めないで欲しい。

「好きだよ。一生大切にするって約束する」

 夢じゃないと私に教えるように、田中さんが私の耳元で何度でも好きを伝えてくれて‥‥

「私も、光希さんが大好きです」

 絶対に叶わないと思っていた0.0001%の恋が実を結び、私達は本当の恋人になった。

 そして、きっと間もなく夫婦になり、誰よりも幸せになるのだ。

 明日は2人で結婚の承諾をもらいにいこう。

 (完)