あの後彼女の父親に俺達の交際について報告したことを説明し、週末に改めて挨拶させてもらうことになった。

 緊張はするが、今後ご両親に対して後ろめたさを感じずに彼女に会えることの喜びが勝っている。むしろ明日が待ち遠しい。

 定例会議が終了し片付けをしているところに深山さんがやってきた。

「田中さん、少しお時間いいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」

「個人的な話で申し訳ありませんが、亜子ちゃんのことです」

 ああ‥‥そういえば、彼は彼女と噂になる程親しかった。そして多分、彼は彼女のことが好きだった。

「そうですか‥‥場所、変えた方が良さそうですかね?」

 あんな事件があったばかりだ。どんな話かはある程度予測がつく。噂のネタを増やさないためにも、仕方なく以前亜子ちゃんと行った店に個室の空きがないかを確認し、予約を取った。

 店に移動し注文を済ませてから本題に入る。

「それで、話とは?」

「亜子ちゃんが田中さんのせいで襲われた件です。田原さんの件は解決したのかもしれませんが、今後も同じようなことがあるかもしれませんよね?」

「絶対にないとは言いきれませんが、できる限りの対策は講じるつもりです」

「そこまでして亜子ちゃんが田中さんと交際を続ける意味ってなんですか?そんなリスクを負わなくてもいい相手なんていくらでもいますよね?」

「例えば‥‥深山さん、とか?」

「‥‥はい、そうです。田中さんはどういうつもりで亜子ちゃんと付き合ってるんですか?それこそ田中さんなら亜子ちゃんじゃなくてもよりどりみどりですよね?」

「どういうつもりって‥‥それはどういう意味で言ってるのかな?」

「田中さん、亜子ちゃんのこと別に好きってわけじゃないんですよね?」

「え?なんで?どういうこと?」

「誤魔化さなくてもいいですよ。亜子ちゃんから聞いたんです。恋人も好きな人もいないからとりあえず付き合ってるって。誰でもいいなら別に亜子ちゃんじゃなくてもいいですよね?」

「仮にそうだとしても、それを深山さんに言われる筋合いはないよね?どうするかは彼女が決めることだろう?」

「それが無理だからこうして俺が言ってるんですよ」

「無理って‥‥彼女だって立派な大人だ。自分のことは自分で決められるはずだろ?」

「亜子ちゃんは田中さんのことが大好きなんですよ!だから例えリスクを負っても、田中さんが亜子ちゃんのこと好きじゃなくても、自分から離れることができないんです!」

 ‥‥‥‥‥‥え?

「み、深山さん?今、なんて‥‥?」

「は?」

「今、亜子ちゃんが俺のこと‥‥」

「そうです。亜子ちゃんはずっと前から田中さんのことが好きで自分からは離れられない。だから田中さんから離れてもらうしかないんですよ」

「ごめん、それは無理だ。俺は絶対彼女から離れないし、深山さんにも絶対に譲れない」

「え?」

 俺は財布から2千円を取り出し、慌てて店を飛び出した。