「今回軽傷で済んでるし大した罰にはならんだろうから今後のことを考えて告訴はしないつもりなんだ。告訴しない代わりに次はないと思わせた方が拘束力が高そうだしな。それに田舎に戻して親御さんに見張らせた方が安心だ」

 田原さんが退室した後、彼女の親が来るのを待ちながら今後について話してもらっていた。

「田中君のストーカー被害に関しては君の判断に任せるよ?」

「その件に関しては寝耳に水なので、持ち帰って検討してみます」

「で?亜子との交際の件、聞こうじゃないか」

「もしかしなくても、あの時のあれがきっかけで付き合いだしたのか?」

「ああ、そうだな」

「ん?どういうことだ?」

「彼に亜子さんとの付き合いをすすめられたんです。ですが、以前から亜子さんに関心を寄せていたので、チャンスとばかりにその提案に飛び付かせもらった次第です‥‥」

「だが、どうして秘密にしてたんだ?」

「おそらく‥‥亜子さんがまだ私に好意を寄せきれてないからだと思ってます」

「田中君はどう思ってるんだ?」

「私は亜子さんと結婚したいです。ただ、彼女に無理強いはしたくないので、今は少しでも好きになってもらえるよう、鋭意努力中です」

「まあ、亜子もじきに30歳だ。もう子供じゃないし付き合いに関してどうこう言うつもりはないから安心しなさい。責任を取るつもりがあるなら固いことも言わんよ」

「はい、ありがとうございます」

「はああ‥‥亜子が嫁にいくとか、本当は考えたくないんだがなあ‥‥」

 思いがけず彼女の父親に交際の報告をすることになってしまったが、彼女が心配していたような事態は避けられていると信じたい。

 今回のことで彼女の気持ちに変化があった可能性も否定はできない。もちろん、悪い方に‥‥

 それでもやっぱり俺は彼女を手放したくないと感じている。どうにかして彼女を繋ぎとめておきたい。どうしたら彼女は俺のことを好きになってくれるんだろうか?

 彼女の声が聞きたくなって、断りを入れて一時退室させてもらう。

 エレベーター脇にあった非常階段のドアに入り、彼女に電話をかけた。

「もしもし?亜子ちゃん?」

『光希さん、急にどうしたんですか?』

「亜子ちゃん、もしかして田原さんに襲われたこと、俺に黙ってるつもりだった?」

『え?あ‥‥いや‥‥』

「俺のせいで凄く怖い思いをさせてごめん。本当に無事で良かった。今すぐ会いたいよ。会って抱きしめたい‥‥」

『私も‥‥光希さんに会いたいです』

 こうして彼女の声を聞けただけで泣きたいくらい幸せなのに‥‥どうして俺達は両思いじゃないんだろう‥‥