月曜日、橘から連絡が入り、急遽会社に呼び出された。

 スケジュールは詰まっていたが、話によると亜子ちゃんが襲われ、それに俺が関わっているらしい。俺は即効でタクシーに飛び乗った。リスケは車内ですればいい。今はとにかく彼女の安否が重要だった。

 会社に到着すると、俺はすぐに社長室へと通された。そこには社長と橘、数名の警備員に囲まれた女性がいて、彼女の姿はない。

「遅くなって申し訳ありません。あの‥‥橘さんは?無事なんですか?」

「ああ、さっき病院から連絡があって額の打撲だけで他は問題ないそうだから大丈夫だ。急に呼び出して悪かったな」

「いや、彼女が無事ならそれでいい。で?俺が関係してるって‥‥」

 そこまで言って、すぐそばで立たされたままでいる女性が目に入り、なんとなく状況を理解した。

 彼女は確か以前秘書室にいた田原さん。あまりにもしつこく誘ってくる厄介な相手で、橘と亜子ちゃんの不倫の噂を流したのも彼女だったはずだ。異動してからもしばらくは付きまとわれていたが、最近姿を見せなくなりやっと諦めてくれたのかと思ってたんだが‥‥

「今朝、彼女が給湯室で亜子に暴行を加え、ナイフで襲いかかったんだ。理由はお前を亜子に奪われたせいなんだが‥‥よくよく話を聞くと、彼女はお前を尾行して家を突きとめ、暇さえあればお前の家を見張っていたらしい。つまりストーカーだな。で、昨日亜子とお前が家から2人で出てくるのを目撃し、頭にきて亜子を襲ったそうなんだ。言いたいことは色々あると思うがとりあえず事実確認をしたい。お前、昨日亜子と会ってたのか?」

 こんなかたちで彼女のことを報告することになるのは不本意過ぎるが、誤魔化してもしょうがないだろう。

「はい、ひと月程前から亜子さんとお付き合いさせてもらってます。ご挨拶もせず、申し訳ありませんでした」

 彼女の父である社長の橘氏は明らかに怒りの感情をあらわにしている。それが田原さんに向けたものなのか俺に向けたものなのかは判別しようもない。とにかく今は謝罪するしかない。

「その件はまたあとで話そう。今は彼女のことだ。田中君は彼女とはどういう関係なんだ?」

「関係と呼べる程の関わりはありません。以前から何度も食事に誘われていましたが、その都度お断りしていました。付きまとわれていたことには全く気づいておらず‥‥知っていればこんなことにはならなかったのに‥‥本当に申し訳ありません」

「それは仕方のないことだ、君が気にすることではない。今彼女の両親がこっちに向かっていて、到着次第今後について話すつもりだ。とりあえず彼女の懲戒解雇は決まってるが、できる限りの安全対策をしたいと思っている。既に亜子への接近禁止の手続きを始めてるんだが、田中君はどうする?ついでだからこっちで手続きしとくかい?」

「はい、そうしていただけるなら助かります」