運転代行を頼んだ兄に送られ家に帰った。食事は外で済ませたのでお風呂に入ってすぐさまベッドに潜り込む。

 ‥‥‥‥え?もしかして私、田中さんと付き合うことになったのか?

 でも待って?あれは兄が勝手に言ってただけで、田中さんの反応はどうだった?途中まで照れていた気がするけど、結婚の話になった辺りから少し悲しげな表情をしていたと思う。

 どうやら田中さんは恋愛にいい思い出がないらしい。あんなにイケメンなのに、なんで‥‥?

 兄と同い年の田中さんはもう36歳だ。女性に関わるとろくなことがない、と思う程度には関わった経験があるということだろう。

 好きじゃない相手からしつこく言い寄られるだけでもしんどいと思う。更にその女性達が田中さんの好きな人に嫉妬して攻撃をしかけるんだとしたら‥‥それは確かに恋をする気も失せそうだ。

 ちょっとランチに行っただけであんな大惨事になったのだ。田中さんが本気で誰かを好きになったりしたら‥‥流血沙汰か?過去に流血沙汰があったのか?

 そんなトラウマレベルの経験をしてたら、あれだけもてるのに独身なのも頷ける。イケメンは想像以上に大変なんだな‥‥

 思考が斜め上方向に展開し始めたせいで、田中さんが付き合うことに対してどう反応したのかを思い出すには至らないまま、私は眠ってしまったらしい。目覚めると既に朝だった。

 よく寝たおかげで頭はスッキリしている。大きく伸びをして、時間を確認しようとスマホを手に取ると、メッセージの通知があることに気づいた‥‥

「田中さん!?」

 帰宅後すぐに寝てしまった私は、11時過ぎに届いたメッセージに気づけなかったらしい。震える手で通知をタップする。

『夜分遅くに失礼します。先程は話を聞いて頂きありがとうございました。噂のこと、本当に申し訳なく思っていたので、橘さんに嬉しかったと言ってもらえて少し救われた気がしています。私にとって橘さんとのランチはとても楽しい時間だったので。だから、橘が言っていた交際の件、橘さんさえ良ければ前向きに検討してもらえたら嬉しいです。できるなら橘さんの考えを聞かせてもらいたいので、会ってお話がしたいです。橘さんのご都合はいかがですか?』

 5回読み直した。何度読んでも、田中さんが私とのお付き合いを前向きに考えているように感じる。これって、少なくとも私に好感を持ってくれてるってことだよね?

「くうううう~」

 枕に顔を埋め、ベッドの上で身悶える。

「はっ!返事しなきゃ!」

 メッセージが来たのは昨夜なのだ。早く返事をしないと、田中さんの気が変わっちゃうかもしれない!

『私もお話がしたいです。いつでも田中さんの都合に合わせられるので、場所と時間をお知らせ下さい』