「田中って、もう随分長いこと恋人いないんだろ?結婚する気はないの?」

「いや、別に結婚したくないとかではないんだが、仕事ばかりで機会がなかったんだ」

「さっき言ってた女性に関わるとろくなことがないってのは?関係ないの?」

 兄が田中さんにお酒をすすめながら話を振っていく。酔わせて色々聞き出そうとしているのが見え見えだが、友達の気軽さからか、田中さんの口も普段と違って緩んでいるようだった。

「うーん‥‥完全に無関係とは言えないな。俺は女性との適度な距離感がわからないんだ。ほんの少し愛想を振り撒くと自分に気があると女性に勘違いさせてしまう。それこそ気軽に食事に誘っただけで嫉妬の対象になってしまうんだから、まともな恋愛なんてできないだろ?」

 なんだろう‥‥田中さんが想像以上にもて過ぎてて、悩みの次元が一般人とはまるで違う。

「年をとってアプローチされること自体は減ってきたけど、その分内容が濃くなってきたというか‥‥それもあってかわすスキルが上がったのも良くなかったんだと思う。本気で向かってくる相手に誠意のない対応をすれば、悪い結果になるのは目に見えてたのに‥‥」

「田中みたいなタイプは早々に結婚した方が良かったのかもしれないな。無駄に独身だからトラブルを引き寄せるんだよ。年も年だし、もう一足飛びで結婚したらいいんじゃないか?」

 やばい‥‥兄の目指している話の終着点が見えてきた‥‥

「結婚かあ‥‥しようと思ってできるなら、もうとっくにしてるだろ。橘は?恋愛結婚?」

「いや、俺は見合い。けど結婚前に交際期間を作ったから、あまり見合いって感じはしてないかな?亜子もそう思うだろ?」

「そうだね。長い交際期間を経た熟年カップル感があるかも?」

 兄とのぞみさんはラブラブって感じではないが価値観が似てるのか妙に馬が合うようで、確かにはじめから仲は良かった気がする。

「見合いかあ‥‥それもまたトラブルを引き寄せそうでちょっと怯むな‥‥」

「見合いといっても色々あるだろ?今だって俺が友人と妹を引き合わせてるんだから、広義では見合いといえるんじゃないか?」

 お兄ちゃん‥‥それは無理があると思うわ‥‥

「亜子も田中も恋人はいないんだし、特に好きな相手もいないんだろ?だったら見合いしたと思って、深く考えずにちょっと付き合ってみたらいいよ。それで無理そうだったらなかったことにすればいいんだし。うん。それがいい。そうしよう!」

 兄の謎理論が炸裂し、兄の頭の中では私と田中さんが付き合うことになったらしい‥‥ひとりで盛り上がる兄に促されるまま連絡先の交換をし、その日は解散となった。