あの日以降、伊東さんと君島さんによる恋愛相談が続いていた。

 アラサーの私より5歳も若い2人だが、経験豊富な彼女達のアドバイスにはなかなか重みがある。何より今まで悶々とひとりで悩んでいたことを相談できるのは悪くない。

「やっぱり一度当たって砕けるのがいいんじゃないですか?もしかしたら上手くいくかもしれないし?」

「それって私が田中さんに告白するってことですよね‥‥?」

 そんなの‥‥想像しただけで恥ずかしい。

「橘さん、本当に30歳ですか?反応が小中学生みたいでかわいいにも程があります」

「まだ29歳です!」

「あははは!そこ拘るのはアラサー感がありますね!」

「橘さんに田原さんの10分の1でも積極性があったら良かったんですけどねえ‥‥」

「田原さん、そんなに凄かったんですか?」

「凄かったなんてもんじゃないですよ。当たり前のように待ち伏せして、声かけまくってましたからね?あれだけ断られてへこたれない田原さんも凄かったけど、折れない田中さんもある意味凄かった」

「本当それ。断られる度に田原さんの機嫌が悪くなるから、ちょっとくらい付き合ってやれよと何度も思ったー」

 30代後半の田中さんは若い彼女達にとっては範囲外らしい。それどころか、彼のせいで田原さんにあたられていたからか、田中さんは彼女達に敵認定されてるようだった。

「お見合いって断ってもいいんですよね?だったら私は、新たな出会いに期待!かな。失恋には新しい恋が一番の特効薬ですからね!」

 失恋かあ‥‥2人がいう通り、私ははっきりと失恋をしていないからいつまでも田中さんを引きずってしまっているのだろう。でも、田中さんに告白なんて、難易度が高過ぎる。

 振られるとわかっていても、実際に振られて傷つくのは怖い‥‥結局のところ、私の弱々メンタルが原因なのだ。このままじゃ駄目だけど、どうしても次の一歩が踏み出せない。

 ほぼ答えは出てるのに、勇気がなくて何もできないまま時間だけが過ぎていった。

 その一方で、親しく話すようになってから伊東さんと君島さんは随分と変化した。私がしている仕事に興味を持つようになり、自ら進んで仕事を覚えようとし始めたのだ。

 2人の異動もやむなしと考えていたらしい大前さんは、この変化を凄く喜んだ。総務に異動した田原さんがあまりにも使えないと苦情がきているそうで、2人を異動させたくても受け入れ先がなくてかなり困っていたらしい。

「この調子で2人が仕事を覚えてくれたら無理に異動させる必要もないし、もし橘さんが抜けることがあっても、以前のようなことにはならなそうでひと安心です」

 異動してきたばかりの私が抜ける心配をしている大前さんは、父から見合いの話を聞いているのかもしれない。いい加減私も覚悟を決めなくては‥‥