「深山さんじゃなくて田中さんだったかあ‥‥なるほどねえ‥‥」

「でもお付き合いはしてないんですよね?」

 2人の尋問スキルが高過ぎて、何ひとつ隠し通すことができなかった。

「お付き合いなんてとんでもない!本当に、私が一方的に憧れてるってだけで‥‥」

「え?でも橘さんと田中さん噂になってたじゃないですか?」

「いや‥‥あれは、仕事の話をしながらランチをご一緒しただけで、それも一度だけですし、個人的にお話したことはないんですよ?」

「えー?でも田中さんと2人で食事はしたんですよね?田中さんの場合、それだけでも十分可能性あると思いますよ?本当、笑っちゃうくらい田原さんの誘いには無反応でしたもんね?」

「うんうん。最後の方なんて、もう食いぎみに断られてて、笑いこらえるのマジ大変だった」

「他にもアプローチしてた人は結構いたのに結局誰も田中さんを誘えてないんですよ。なのに橘さんとは食事してる‥‥これは期待してもいいんじゃないですか?」

「いやいや、兄と田中さんが高校の同級らしいんです。それもあってだと思うんで、全然そういうのじゃないんですよ‥‥」

 わかりきったこととはいえ、自分で言っててちょっと悲しくなってきた。それよりも‥‥

「あの!このことは父と兄には絶対内緒にして下さいね!?私が田中さんを好きだなんて知られたら、2人が強引に田中さんとの結婚話を進めちゃいそうで本当洒落にならないんで」

「えー!何それ!むしろラッキーじゃないですかー!」

「そんなことないですよ‥‥無理矢理結婚して冷たくされたりしたら、こっちが好きな分、余計につらくないですか?」

「あー‥‥うん、なんかわからなくもない」

「そう言われると確かにそうかも‥‥わかりました!絶対このことは内緒にします!」

「父と兄は凄く優しいんですけどどうしても繊細さに欠けるからこういう話はしにくいんですよねえ‥‥なんか聞いてもらって少しスッキリしました」

「橘さんとこんな話ができるなんて思ってもみなかったから、私も嬉しいです!」

「本当、橘さんは年上だし仕事もできるし社長令嬢だし‥‥私達とは別世界の人間かと思ってましたけど、そうでもなくて安心しました」

「私、年は上でも恋愛に関してはからっきしなんで、良ければまた相談に乗って下さい‥‥近い内にお見合いすることになりそうなんで、きっと悩みが増えると思うんです‥‥」

「見合いですか‥‥あーそれで田中さんのこと諦めようとしてるんですね?」

「そうなんです。好きな人がいるのにお見合いなんて、相手の方に失礼じゃないですか。でも私ももうすぐ30歳だし、本格的に結婚のこと考えなきゃってのもあって‥‥望みのない恋は諦めなきゃって‥‥」

「なるほど‥‥それはむずいですね」

「そう、むずいんです」