その後会議は予定通りに進み、特に問題もなく終了した。ただし、橘さんの視界に俺が入り込むことは一切なかったが‥‥

 仕事のことだけを考えれば、変に彼女を意識しないで済むのだからむしろその方がいいのかもしれない。実際今日もスムーズに会議は進行したのだ。

 だがどうして彼女に避けられているのか、その理由が気になってしょうがない。

 先週のランチでは視線も合っていたし、間違いなく笑顔のままお別れしたはずだった。あの時楽しい時間を過ごせたと思っていたのは、俺の独りよがりだったのだろうか?

 やはり踏み込んだ質問をしてしまったのが良くなかったのか?それともからかい過ぎたのがいけなかったのか?もしそうだとしたら謝りたいが、こんなにも拒絶されている状態では話しかけるのも難しい。

 仕事に支障がないのなら、いっそこのままでも問題ない。この先やりにくくなったら、改めて謝罪をしてもいいだろう‥‥

 橘さんから拒絶されてると知るまで浮かれていた反動か、久し振りに芽生えかけていた感情を抑え込むような消極的な結論で自分を納得させることにした。

 その後も橘さんの態度に変化はなく、それを少し寂しく感じながらも仕事は至って順調に進んでいった。

 営業部長の山崎さんから相談したいことがあると面談の申し込みがあったのは、それからひと月以上経った頃だった。

「発表はまだ少し先なんだが、橘が異動することになったんだ。だから次回のタスクから橘が抜けることになる」

「え?随分急じゃありませんか?正直橘さんが抜けるのは大打撃です。おそらくプロジェクトの進捗にかなり影響しますよ?」

「だよなー。俺もそう思って粘ってはみたんだが、社長が聞き入れてくれなかったんだよ」

「社長が‥‥ですか?」

「あー‥‥田中さんだから話すけど、つい最近橘が社長の娘だって公表されてね?まあ詳しいとこまでは話せないけど、その関係での異動なんだわ。これ絶対ここだけの話にしといてよ?」

 一瞬俺のせいで橘さんが異動することになったのかと焦ったが、どうやら原因は他にあるらしい。

 だが、橘さんが自分の身分を隠していたのには、それなりの事情があったのだ。それを公表したというのは、よほどのことがあったと推測される。彼女は大丈夫なんだろうか‥‥?

「非常に残念ですが、決まったことなら仕方がないです。残った人達に頑張ってもらうしかないですね。もちろん、山崎さんにもこれまで以上に活躍してもらいますよ?」

 俺はあくまでも外部の人間だ。山崎さんからこれ以上の話を聞くのは無理だろう。俺はその後すぐに橘へ連絡し、会う約束を取り付けた。