デジタルテクノロジーを駆使してビジネスの在り方を変化させることをDXという。らしい。

 わかるような、わからないような‥‥?

 一応若者にカテゴライズされているはずの私でもこんな感じなのだから、お爺ちゃん達の反応は推して知るべしである。

「まずはこのプロジェクトがどういったものなのかを、ここにいる全員に知ってもらうことが重要です。今日は具体的な話は抜きにして、できる限り皆さんの疑問を潰すことから始めていきましょう」

 聖母様のように優しく語る田中さんに、お爺ちゃんの1人が早速食ってかかる。

「そもそもさー、今問題なく仕事ができてるのに、わざわざ金と手間をかけてそんなことする必要があるとは思えないんだよねー?」

「それに関しては、問題を問題として捉えきれていない可能性を感じます。例えるなら、そうですね‥‥計算機の調子が悪くて、計算が上手くできなかったとします。でも、手動で計算をすれば仕事は無事に終わらせることができ、問題にはならない。今、山崎さんが仰ったのは、そういうことだと思います。一見、計算機が壊れたままでも問題がないように思えますが、それが続けば時間の損失となります。その規模が大きくなれば、損失はそれに比例しますよね?このプロジェクトでは、その問題の本質‥‥今の例で言えば、計算機の調子が悪い理由、故障の原因ですね?それを表面化させ、どうやったら解決するかを検討することが、とにかく重要なんです」

「それは、無駄を省く‥‥ってことですか?」

「はい。深山さんが仰った通り、一番身近で分かりやすいのは、無駄を省くことです。日々の業務の中にある極々小さな問題を解消するのは意外と簡単です。デジタル化を進めるには、実際にその効果を実感してもらうことがとても重要なので、私達もそこからスタートすることになると思います。現状、時間がかかり過ぎている作業や、数人で分担している作業を、デジタル化することで省略させる。DXの第一歩です」

「随分聞こえはいいが、つまり人切りだろ?」

 山崎、お前、少し黙ってろ。

「確かに、デジタル化を進めることで人の手が不要となり、人員削減を行っている企業もあります。ですが、御社のように歴史ある企業の場合、人は宝です。長い歴史の中で培われた知識や技術は、より高度なデジタル化を進める時には、必要不可欠となります。もちろん、その能力は技術の研究や開発にも不可欠ですよね?デジタル化を進めたことで空いた若い手に、御社独自の知識と技術を与えることができれば、更なる発展へと結び付く‥‥そんな可能性が秘められていると、皆さんも思いませんか?」

 『人は宝』‥‥この言葉は、お爺ちゃん達の凝り固まった心に響きまくったらしい。多くの人が田中さんの話に真剣に耳を傾け、深く頷いていた。半落ちどころか、ほぼ落ちだった。