ようやく何かがぼんやりと見え始めたか‥‥というところで、特大の爆弾が投下された。

 跡取り息子でもある常務の不倫疑惑‥‥この画像をばらまいた犯人は、亜子ちゃんと田中さんの噂を流すのと同じ感覚でメールを送信したのかもしれない。だとしたら、信じられない程頭の悪い人物だ。

 亜子ちゃんと常務が兄妹だったのは、不幸中の幸いだ。もしそうじゃなければ、真実がどうであれ疑惑を払拭するのはかなり困難だったと思われる。

 次期社長でもある常務の信用問題に関わる話なのだ。これが外部に漏れれば、取引先との関係に影響がないとは言い切れない。そうなれば株価にも影響する。

 当然の結果で、可及的速やかに問題を解決すべく、その日の内に亜子ちゃんが社長の娘であることが発表された。

 亜子ちゃんは大丈夫なんだろうか‥‥

 そんな心配をしていたところに、社長が常務と経理部長をひき連れてシステム部にやってきた。その表情はこれまで見たこともない程に厳しく、その場にいた全員が息を飲む。

「あのメールを送信した人物を特定することはできないだろうか?経理部長は知らないと言ってるし、そもそもあんなことをする理由がないのも確かだ。このままこの犯人を見過ごすわけにはいかない」

 そこにいた多くの人が『できれば関わりたくない』という顔をしている。普段社長と顔を合わせることすらないのに、明らかに不機嫌そうなのだ。びびってしまうのは仕方がない。

「あー‥‥じゃあ、ログを確認してみます」

 俺が名乗りをあげたおかげで、場の緊張が若干緩む。問題は何ひとつ解決していないのだから、あくまで若干だ。

「メールの送信は今朝ですよね?‥‥あー、経理部長の端末から送信されてるのは間違いないです。‥‥あ、でもこれ、送信予約されてたみたいだ。‥‥うーん、直近で予約の操作はされてないか。ちなみに、この写真はいつ撮られたものですか?そっちから辿った方が早いかも‥‥」

「先月末の金曜だ。亜子に声をかけたのはプロジェクト会議の前だったから間違いない。だから‥‥17日前だな」

「17日前ですね。‥‥あ!あった!多分これです!ちょうど半月前、月曜の始業前に経理部長の端末で送信予約されてます」

「それなら私は喫煙所にいて席を外してたかもしれません。うちは始業前から仕事を始める社員も多いですし‥‥その‥‥私の端末は管理用のソフトが入ってるので‥‥私以外の者が私の席で作業していても誰も気にしない環境なんです‥‥」

 経理部長がもの凄く気まずそうに経理部のセキュリティ環境の悪さを自白した。言われてみれば、経理部長もパソコンにパスワードが書かれた付箋を貼っている猛者のひとりだった。