田中さんにわけてもらったのはカレーで、スプーンを使える分食べやすかった。私がサンドイッチに悪戦苦闘してたから、田中さんが気を使ってくれた可能性を感じる。優しい。好き。

「そういえば、何か話があるんでしたよね?」

「はい。実は、橘さんのお兄さん‥‥橘とは高校の同級生なんです。それでこの前、橘さんとの関係をはじめて聞かされて、今更ですがちゃんとご挨拶しておこうかと思って」

「ああ、そうだったんですね‥‥もう、お兄ちゃんてば余計なこと言って。会社で兄と私は一切関わりないですし、変な気遣いは無用です。本当、今まで通りでお願いしますね?」

「ええ、もちろんです。今後もビシバシしごかせてもらうので、覚悟しておいて下さい」

 田中さんの笑顔が眩し過ぎて目が眩む。田中さんにならしごかれたい‥‥いけない扉が開いてしまいそうだ。

「でも、どうして会社でご自分のことを公表していないんですか?」

 ああ‥‥やっぱりそこは気になりますよねえ‥‥

「あ‥‥立ち入ったことを聞きました!本当すみません!質問を取り消します!」

 私が渋い顔をしたせいで、田中さんが慌てて発言を取り消そうとした。この慌て振りはレアだ。レアな田中さんを見せてもらったお礼に、私が社長の娘であることを隠している理由くらい話してもいいだろう。

「いえ、大した話でもないし大丈夫です。うーん‥‥簡単に言ってしまうと、私は社長令嬢という肩書きを放棄して逃げ出したんです。社長の娘というだけで贔屓されてると勘ぐられて努力を認められなかったり、逆にできが悪ければ社長の娘のくせにと必要以上に評価を下げられる‥‥兄のようにそれを跳ね返す程の努力ができれば良かったんですが、私にはそれができなかっただけなんです」

 兄のように努力のできなかった私は、田中さんに軽蔑されただろうか‥‥話したことをほんの少し後悔する。

「でも橘さんは親の力に頼らず自分の力で立派に仕事をしているのだから、やはり私は素晴らしいと思います。甘えが許される環境にあってそれができる人は中々いない。橘さんが努力家なのは、この半年一緒に仕事をしてきた私が保証します。元々の仕事に加えて新規のプロジェクトに関わり、更にマクロの勉強まで‥‥並大抵の努力ではなかったでしょう?」

 なんか褒められ過ぎてる気がして、少し居心地が悪い。

「そんな‥‥仕事も勉強も周りの人に助けてらってるからなんとかやれてるし、このプロジェクトだって、田中さんからたくさんのことを教えてもらったからここまで頑張れたんですよ?」

「そういう驕らない考え方をする橘さんだからこそ、周囲の人も助けてくれるんでしょうね?人徳ってやつです」

 あれ?田中さんがにやついてる‥‥?もしかして私、からかわれてるのか?

「もう勘弁して下さい!田中さん、私を褒め殺すつもりですか!?」

「あははは!すみません、照れてる橘さんがかわいくて、つい調子に乗ってしまいました」

 田中さんが!かわいいって言った!恥ずかしくて、もう本当に死んじゃいそう!