「コンサル王子が遂に本性を現したって、会社でちょっとした噂になってるぞ?」

 王子って‥‥その呼び名は随分久し振りだな。

「部門を跨ぐ横断課題に入る前に、どうしても意識改革が必要なんだよ。担当者のレベルを確実に上げておかないと、本来の目的を達成できなくなるからな。多少嫌われたとしてもコンサルとして厳しさが求められる局面なんだ。全てはDX推進のためだよ」

 お互い忙しくて中々暇がなく、橘と飲むのは数ヶ月振りだった。もしかして俺のことで苦情が殺到し、釘でも刺そうと誘われたのか?

「まあ俺は素人だし口出しするつもりもないんだけどな。だが、かわいい妹がいつも眉間に皺寄せてるもんだから、兄としては心配せずにいられないんだ」

「妹‥‥?」

「あれ?言ってなかったっけ?営業部に橘っているだろ?」

「あー‥‥」

 橘に妹がいることは知っていたが紹介されたわけじゃなかったし、まさかあの橘さんが橘の妹だとは思ってもみなかった。でも冷静に考えてみると、名字が同じことになんの疑問も持たなかったのは、我ながら不思議だ。顔が似てないせいだろうか?

「随分年が離れてるんだな?顔が似てないから全然気づかなかった」

「ああ、亜子は母親似だからな。会社では社長の娘だってことは公表してないし、俺もいち社員として接するように頼まれてるんだ。それでも、年が離れてるせいかいくつになっても俺にとってはかわいい妹でな。この前親父も言ってただろ?目に入れても痛くないって」

「親父さんのあの言いようで、勝手にもっと若いのかと想像してた。年が離れてるって言っても10は離れてないよな?」

「俺達の7歳下だな‥‥親父が結婚の話してただろ?お前が冗談で流してたからすぐに引いてたけど、あれ、結構本気で言ってたと思うぞ?親父、お前のことかなり気に入ってたみたいだったからな。亜子は結構かわいいだろ?今は恋人もいないみたいだし、お前にその気があるなら紹介してやるぞ?」

「いやいや、仕事がしづらくなるから今は遠慮しておくよ」

「まあそれもそうだな。でも、今はってことは可能性はゼロじゃないってことか?亜子はかわいいだけじゃなくて、優しくていい子だし、おすすめだぞ?学生の頃なら絶対に紹介なんてしなかったが、今のお前だったら安心して妹を任せられるんだがなー」

「だけど7歳も下なんだろ?相手が36歳の俺じゃ、少しもったいない話に思えるがな?」

「‥‥‥‥確かに。お前に亜子はもったいない」

 橘は少し酔ってるのかもしれない。自分から話を振っておいてこの言いよう‥‥無駄に貶められた気分になるじゃないか。