ここまで言えばもうお分かりだろう。私は肉食系の皮を被った、ただの恋愛弱者だ。

 草食系を装った肉食系男子がロールキャベツに例えられるのなら、私はさながら『肉巻きおにぎり』といったところだろうか。中身にギッシリ肉が詰まったロールキャベツとは違い、私のお肉はペラペラだ。

「肉巻きおにぎり‥‥食べたいな」

 最寄りの駅に到着し、家までの道を歩きながらひとり言を呟く。その流れで、自分が空腹を感じていることに気が付いた。家に帰ればきっと何かあるだろう。

 私は28歳にもなって、いまだに両親と暮らしている。就職後、家を出たいと考えたことはあったが『嫁に行くまでは実家にいなさい』と両親に反対され、そのまま今に至っている。家を出るなと言ったのは両親だ。このまま30歳を過ぎても文句は言わせない。

「亜子‥‥あなた最近、随分仕事を頑張ってるみたいだけど、彼氏はいないの?30歳なんてすぐよ?大丈夫なの?」

 帰宅後、用意されていた食事を食べていた私に、向かいの席に腰掛けた母が、いかにも心配そうに話を振ってきた。

「ちゃんと考えてるから大丈夫だよ」

 もちろん何も考えていない。だが、幾度となく繰り返されてきたこの話題には、こう返すのが一番だと既に学習済みだ。

 文句を言わせない方法はひとつではない。昔から逃げるが勝ちというではないか。家での私は肉を脱いだただのおにぎりなのである。

「あれ?お父さんは?まだ帰ってないの?」

 ここですかさず話題をチェンジが定石だ。

「ああ、今日は接待だって言ってたから、少し遅くなるみたいよ?最近接待が多いから、あまり飲み過ぎてないといいんだけど‥‥」

「そっか。社長も大変だねー」

 何を隠そう、私の父は社長だ。おにぎり系女子な私だけれど、実は社長令嬢。公表していないのでほぼ知られていないが、父が社長をしてるのは私の勤めている会社だったりもする。

 株式会社橘パイプ‥‥社名にガッツリ名字が使われてるし、もちろん社長は橘。常務をしている兄も橘。私は母に似てるから、父と兄とは性別を抜きにしても雰囲気が違うとは思う。それにしても、ここまでバレないのは逆に笑える。

「もう、亜子ったら。他人事みたいに言ってるけど、お父さんに何かあったら、あなただって今みたく呑気に生活できなくなるのよ?」

「お兄ちゃんがいるし、会社は大丈夫でしょ?私だってちゃんと働いてるし、お母さんの面倒くらい、私がみるから安心して?」

「ちょっと、縁起でもないこと言わないでちょうだい。第一お母さんの心配するくらいなら、亜子は自分の将来のことを心配なさい?このままだとあなた、孤独死するわよ?」

 自分が言い出したくせに‥‥それに、そのどこぞのよく当たる占い師の予言みたいな話し方はやめて欲しい。本当にそうなりそうで、なんか怖い。