実際にプロジェクトが動き出すと、想像より反発は少なかった。若い層に関しては、苦手意識を取っ払ってしまえば、わりとすんなりデジタル化を受け入れてくれる。これはこの会社に限ったことではない。

 アナログで管理していたデータをデジタル化することや、個々の業務をデジタル化させ効率を上げることは、DXの第一第二段階だ。

 そして第三段階では、デジタル技術を駆使して会社全体のビジネス形態を根本的に変えていく。その手法は様々ではあるが、データ分析を用いた品質改善や需要予測、コストの削減などが例としてあげられるだろう。

 新しいものを受け入れることにさほど抵抗を感じない若い世代は、デジタル化を推進する上では欠かせない存在である。その勢いを利用して、ある程度まではデジタル化を進めることは可能だ。

 だが、解決課題が会社全体に影響を及ぼす段階になればそれ相応のリスクを伴うこととなるため、経営層の判断が必要不可欠となる。システム自体もより高度なものとなり複雑化するため、経験を伴った知識や技術がプロジェクト成功の鍵となってくるのだ。若さだけで押しきることはできない。

 実は、抵抗感をなくすことに成功すれば、若い世代よりも40代50代の方がより積極的にデジタル化に取り組む傾向にある。ただ、早い段階で実働部隊となる若い世代を置き去りにしてしまうと、プロジェクトが空回りしてうまくいかなくなるケースもあるのだから、とにかくバランスが難しい。

 橘の会社は大きく製造・販売・技術の3部門にわかれており、今回販売でそのバランスがうまくはまっているようだった。

 橘が採用したシステム部の営業担当者は、現場との連携がうまく取れているように感じられる。営業部の若手もデジタル化に前向きだ。

 まずは販売で実績を上げることが他部門の刺激になると考え、俺は本腰を入れて販売のタスクに取りかかった。

「うーん‥‥さっきから目的がなんなのか全然わからないんですが、そう感じてるのは私だけですか?まず問題はどこにあるのか。効率化はそれを解決するための手段であり、目的ではないんです。橘さん、目的を見失っていませんか?目的がぶれていたら、いくら話し合ってもぼんやりとした解決策しか出てきませんよ?」

 既存のシステムの効率化。まずはここを成功させないことには、次の段階には進めない。ひとりひとりが目的意識を持ち、ロジックに基づいた思考力を身につけなければ、より高度なシステムの構築などできるはずもないのだ。

「山崎さんはどう思われますか?」

 ここにいる全員が一丸となって問題解決にあたることが重要だ。この意識改革を今の段階で行うことは、遠回りなようで近道でもある。全員が当事者でなければならないのだから、誰であろうとわかった振りは許さない。