昨日はちょっと飲み過ぎた。最近仕事が忙しくて、マクロの勉強時間を捻出するために睡眠時間を削っていたのがまずかった。多分私は疲れていたんだと思う。

 深山さんを相手に恋ばなをした挙げ句、田中さんのことが好きだとバレバレな会話をしてしまった。

 話したことは事細かにおぼえているのに、深山さんがどんな顔をして聞いていたのか、全く記憶に残ってない。私、どんだけ夢心地で田中さんのこと語ってたの!?もう死にたい‥‥

 しかも、兄に迎えを頼むという、信じられないような痛恨のミス!どうしてあの時の私はそれがまずいと思わなかったのか、意味が全くわからない。

 月曜日、どんな顔をして深山さんに会いに行けばいいのか‥‥ん?待てよ?私、お金払ってなくない?嘘でしょ?お礼の食事なのに、お金払わないとか馬鹿なの?お願い!誰か!私を殺してくれー!

「うあーーー!」

 自室のベッドで悶絶しているところに、また兄がやってきた。彼は実家に顔を出し過ぎてる気がする。

「亜子?大丈夫か?」

「うん、ちょっと昨日の反省をしてただけ。お兄ちゃんも、昨日は急にお迎え頼んじゃってごめんね?本当助かった、ありがとう」

「帰るついでだったし俺はいいけど、深山君にもちゃんとお詫びしとけよ?」

「うん、わかってる」

 不自然な沈黙が気まずくて、兄を見上げる。

「何?どうかした?」

「‥‥‥‥亜子は、深山君と親しくしてるのか?」

「え?うん、まあね。元々トラブル対応でお世話になってたし、今は仕事も一緒だしね。それに、先週言ってたマクロの勉強。あれ結局、深山さんに教えてもらってるんだ。昨日はそのお礼に食事をご馳走するはずだったの」

「はずって‥‥お前まさか、お礼の食事代を深山君に払わせたのか?」

「そうなの‥‥だから反省してたのよ‥‥」

「そうか‥‥それにしても、デートで家族に迎えを頼むのはどうかと思うがな?」

「いや、デートじゃないし。深山さんとは全然そーゆーのじゃないし」

「ふーん‥‥‥‥」

 その含みのある返しはやめて欲しい。

「それなら亜子は、今恋人とかいないのか?好きな人は?」

 兄まで私の婚期を気にしてるのだろうか‥‥28歳って、そんなに焦る年でもなくないか?

「いや、別にいないけど。今は仕事が忙しくてそんな余裕ないからそれでいいの。将来のことなら私もちゃんと考えてるし、本当大丈夫だから」

 家族にわざわざ田中さんの話をする必要はない。私の恋は推し活みたいなものだ。そんな話をしたところで、かえって心配の種を増やすだけだろう。

「今から勉強するつもりなの。お兄ちゃんも早く自分の家に帰りな?休みの日まで放っておくと、のぞみさんに浮気されちゃうかもよ?」

 まだ何か言いたげな兄を部屋から追い出し、私はパソコンを開く。仕事を楽しいと思ってるのは本当のことだ。私がそれで満足してるんだから、今はそれでいい。