「そうは言っても、いくら上が反対したところで時代の流れには逆らえませんからねー。深山君のスキルはきっとすぐに必要になると思います。業務内容の把握は一朝一夕にはいかないと思いますが、今はとにかくできることをやるしかありません。期待してますよ」

 部長の言う通り、業務の把握はなかなか困難だった。これまでプログラミングしかしてこなかった俺が、現場でどんな業務が行われているのかを想像できるわけがない。直接現場に足を運んでみたところで、外来生物の俺なんて完全に邪魔者扱いだ。

 同じ?外来生物でも、国民的に有名なアライグマだっている。奇しくも俺はタヌキ顔。こうなったら現場に顔を出しまくって、ラスカルもびっくりな程の愛されキャラになってやる!

 そう決意した俺は、それ以降積極的にトラブル対応をするようになった。それ以外でもちょくちょく現場に足を運んでは顔馴染みを増やしていき、同年代はもちろん、今では年配の社員からも可愛がられる存在へと上り詰めている。

 営業部の亜子ちゃんとも、それがきっかけで親しく話すようになった。

 ちょっとしたトラブル対応をお願いされて何度か通う内に親しくなり、ついでにこちらからも営業の業務について教えてもらう。

 多分亜子ちゃんは仕事ができる子なんだと思う。会社名と同じ名字だからか、みんなに『亜子ちゃん』と呼ばれ親しみやすい雰囲気のある彼女だが、実は業務の大半を任されていて、営業部にとってはなくてはならない存在だ。

 実際、営業のことでわからないことがあっても、亜子ちゃんに聞けば大体解決してしまう。

 そんな亜子ちゃんが今回のプロジェクトで営業を代表するメンバーとして選ばれたのは当然の結果だろう。

 そしてその亜子ちゃんに『マクロを勉強したい』と相談を持ちかけられ、俺は半ば強引に自分が教えると申し出た。いつも営業の業務について色々教えてもらっていたし、その恩返しをしたいという気持ちに嘘はない。だが、そこに下心が含まれていないと言えば嘘になる。

 正直なところ、亜子ちゃんはかわいい。でも変にアプローチして気まずくなったらその後の仕事がやりづらいと思い、それまではあくまで同僚として接していた。

 なのに、今のプロジェクトが始まってから頻繁に顔を合わせるようになり、彼女への想いは押さえきれないものへと変化しつつあった。

 DXには夢がある。

 真面目で素直な性格の亜子ちゃんは、あっという間にその魅力に取りつかれ、真剣に仕事に取り組むようになった。目をキラキラさせながら仕事に集中する彼女‥‥こんなの、好きになるなという方が無茶だと思う。