そしたら、わたしは……。

 また、お母さんと、一緒に暮らせる?

 お父さんも、もどってきてくれるかもしれない。

 そう、このことに気づいてから、わたしは苦しんでいた。

 わたしが、幸せになれるかもしれないということに。

 普通の、女の子にもどれるかもしれない、という希望に。



 リヒトくんを犠牲にして、自分だけ幸せになるの?



 と、声がする。



 最初に裏切ったのは、リヒトくんだよ?



 また、心の中で、声がはじける。

 苦しくて、はあ、とため息をついた。

 夏の日差しがギラギラと照り付けてくる。

 帽子、かぶってくればよかったな。日傘とかも。

 う、めまいが……。

 くらっとした、その時だった。



◆◆◆

 スポットライトに照らされた舞台があった。

 舞台の横にある電子時計の時刻は、十時三十四分。

 音楽が、流れてくる。

 ああ、これは……、
 リヒトくんとユキちゃんがつくった、裏切りの曲。

 聞くだけで、胸が苦しい。

 いつの間にか、
 凛々しい顔をした金色のオオカミが、舞台の上に立っていた。

 きっと、あの甘い、優しい声で歌うんだろうな。

 もうすぐ、前奏が終わる。

 その瞬間だった。

 ガシャーン!

 何⁉

 耳をつんざくような音。

 地面が少し揺れる。

 そこで、わたしが見たものは……。

 スポットライトに押しつぶされて、血まみれになったオオカミだった。

◆◆◆