しかし、火野さんによってふさがれてしまう。

 わたしは火野さんを必死に押し、
 火野さんも力強くわたしの両肩をつかみ、行かせないようにする。



「カナさん。どうか、おちついてください! 
これから、真実をお話しますから。さあ。席について!」



 真実って、なんのこと?

 フーフーと息をあらげながら、
 火野さんと取っ組み合っていると……。

 ぽん、と背中をたたかれた。



「カナ」



 大好きな……、ううん、大好きだった、甘い声。

 ふっと力が抜けてしまう。

 わたしはそのまま火野さんに押され、
 勢い余って、うしろにいたリヒトくんごと倒れこんだ。

 ごちんっと音がする。



「いだっ!」



 わたしを抱きしめ、
 かばうように倒れたリヒトくんが、後頭部を打ちつけてしまったようだ。

 わたしはあわてて、
 のっかっていたリヒトくんから立ち上がってはなれた。



「それはバツだな。ヴォルフ」

「……そうだな、フレイム。とても足りないけれど」



 ……?

 ヴォルフに、フレイム?

 口調が変わったのは、フレイムと呼ばれた火野さん。

 ヴォルフと呼ばれたリヒトくんは、
 しょぼくれた顔でわたしを見上げている。



「驚いたろ? カナ。
おれと、フレイム……、火野は、顔見知りなんだよ。
エーファースト国にいた時からのな」



 ……エーファースト国。

 それは、大陸にある外国の名前。

 鎖国をしていても、それくらいは知ってる。

 ……待って、今、そこに「いた」って言ったよね。

 と、いうことは……。



「そう。
おれと、火野は、外国人。
もっというなら……、エーファースト国からきた、スパイなんだ」