最悪だ。

 あの後、必死に走って、走って。

 どうにか自分の教室、二年A組にたどりついた。

 静かに自分の席について、ほっと息をつく。

 あとは、あの男の子のことは忘れればよかった。

 それなのに……。

 運命はどうやっても、わたしを逃がしてくれないらしい。

 授業の前の朝のホームルーム。

 そこにいたのは……。



「宇土島(うどがしま)から来た、
大上利人(おおかみりひと)です。
趣味はバスケ。っていうか、スポーツ全般好きだな。
あ、リヒトって気軽に呼んでくれ~。
よろしく!」



 拍手が沸き起こる。

 そう、あの男の子……、大上くんは、なんと転校生。

 しかも、ウチのクラスに転校してきたのだ。



「宇土島って、外国と貿易してる港や空港があるとこだよね?」

「すご。あんなとこから来たんだな」

「めっちゃイケメン!」



 あちこちで声が上がる。

 宇土島か……。

 わたしたちの国、大和国(やまとこく)は島国だ。

 鎖国をして、外国とのかかわりを断っている。

 その例外が、宇土島。

 本島よりちょこんっと離れた位置にあるそれは、大陸にある外国との貿易を唯一許された島だ。

 なんでも、島には外国人も住んでるんだとか……。

 それでも、島民と外国人との接触は、政府によって厳しく制限されてるって聞いたな。