あれ? 

 わたし、今まで息の吸い方、どうしてたっけ?



「リヒトくん、いい? 
もう、この子には、魔女には、近づかないで。
わたしのように、不幸になりたくなければね」

「不幸に、なるんですか」

「ええ。魔女なんて、いるだけで不幸よ。
実の親でさえそうなんだから、他人は言わずもがなでしょ」

「……」



 息が、苦しい。

 リヒトくんとお母さんがどんなやり取りをしているかわからない。

 でも、これだけは……。

 これだけは、伝えなきゃ。

 わたしは震える手でスマホをとりだして、
 シンガールのミミのアプリを立ち上げた。

 ボリュームを最大にして、ありったけの思いをこめてタップする。



『お母さん、大好きだよ』



 お願い、届いて。

 この病院に来るまでの車の中で、こっそり打ち込んでた言葉。

 どんなにお母さんがわたしを憎んでも。

 どんなに、わたしが恨まれても。

 それでもわたしは、お母さんが大好きだ。

 ミミの声を聴いたお母さんは、ふうーっと息をつき、ほほ笑んだ。

 ……っ! 伝わった!



「わたしは、大嫌いよ。あんたなんて、産まなければよかった」



 あはははっと、お母さんは声を上げて笑った。

 その目は、何も映してないように思えた。



『大嫌い』

『産まなければよかった』



 あ。

 あああ。

 ああああああ。

 息が苦しい。立っていられない。

 目が回る。ぐるぐると世界が揺れる。

 だめ、だ。

 わたしは、そのまま意識を失った。