お父さんは困りはてて、
「どうしたんだ? 何が悲しいんだ?」
って聞いたんだって。
 
 そしたら……。



「カナが……、カナがかわいそうなの!」



 ってこたえがかえってきた。

 当然、お父さんはものすごーく、反省した。



「そう、だよな。
それは本当に悪いと思ってる。
せっかくのカナの誕生日なのに、
おれが、こんなにめちゃくちゃにしちゃって」

「ひっく。ううん、そうじゃない。
確かに、それもあるけど……」



 お母さんは謝るお父さんに向かって、
 一生懸命考えて、言葉を口にしていった。



「カナはまだ、小さいから。
この出来事がどんなに悲しいか、わからないでしょ? 
それが、かわいそうでしょうがないの」

「えーと……。
『悲しいのがわからないっていうのが、かわいそう』
ってこと?」

「そう。
どんなに悲しいことがあっても、残酷なことがあっても……。
本人が『わからない』っていうのは、本当につらいよ!」



 お父さんは、お母さんの言うことがイマイチ理解できなかった。

 とある出来事を、本人が悲しいことだって認識できない。

 それなら、それでいいんじゃないか?

 悲しいってわからない方が、幸せじゃないか?

 そう、お父さんは考えたんだ。