わたしは、後悔と申し訳なさで心が押しつぶされそうだった。

 教務室から移動してる時に、
 火野さんはなんてことないようにこう言ったのだ。



「ああ、そうえば。
シズカさんの容体ですが、
命に係わるようなものではないそうです。
過労からくるものとわたしは聞いています」



 それを聞いた時は、本当にうれしかった。

 もし、お母さんが死んじゃったら、
 どうしようって思ってたから。

 力が抜けて廊下に座りこんだわたしをよそに、
 火野さんは
「車を玄関前にもっていきます。
あなたたちは、教室へ荷物をとりにいきなさい」
と言って去って行った。



「よかったじゃん、カナ!」



 リヒトくんは、自分のことのようによろこんでくれた。

 わたしの背中をぽんっとたたき、



「よっしゃ、ここでちょっと休んでな。
おれ、オマエのも荷物とってくるから!」



 と足早に駆けていった。 

 その時、思ったんだ。

 わたしはいい。だって、お母さんが無事だったから。

 三年ぶりに、お母さんに会えるから。

 でも、リヒトくんは……?

 火野さんに、『教育』が必要だなんて言われて。

 わたしと一緒に、病院に行って、何をされるんだろう?

 魔女に友好的な人は、
 いつの間にかいなくなるって聞いたことがある。

 好意的な発言や政府を否定するような発言を
 どこかで盗聴されて、逮捕されるから。
 
 リヒトくん……、逃げた方がいいんじゃ?