わたしも思わずビックリするような怒鳴り声。



「ね、火野さん、でしたよね?
カナの母さんの容体は?
今は、話せるんですか?」



 火野さんに向かって、必死になって問いかけるリヒトくん。

 なんで?

 なんで、リヒトくんはわたしのためにここまでしてくれるの?

 背中をさする手があたたかくて。

 わたしの聞きたいこと、全部聞いてくる彼が頼もしくて。

 じわじわと、瞳に涙がたまる。



「リヒト!
これは部外者のオマエには関係ない話だ。
これ以上首をつっこむな」



 もっともなこと言う田村先生。

 そうだよ。

 これ以上わたしにかかわっちゃダメ。

 そう思うのに、彼を振り切れない。

 甘えてしまう。

 だからなのか……、
 リヒトくんは、とんでもないことを言ってしまったんだ。



「部外者じゃないっす。
おれは、カナの……、友だちですから」



 ……『友だち』。

 田村先生が、ぽかんと口を開ける。

 火野さんの目が、すうっと細まった。

 まずい。ダメだ。

 そんなことを言わせちゃ、ダメ!



「田村先生、彼をお借りしてもよろしいですか? 
彼には、少々、『教育』が必要なようですから」



 静かな、でも、有無を言わせないような声。

 そんな火野さんの様子に、ぞくっとする。

 ああ、わたしが、とめるべきだった。

 こうなる前に、
 わたしがなんとかしてリヒトくんを追い出すべきだった!



「きょ、教育のためなら、いくらでも! 
リヒトのことを、どうぞよろしくお願いいたします」



 田村先生はガバッと頭を下げた。



「リヒトくん、でしたね。
あなたにはこれから、
わたしと鳥居さんと御声病院に来てもらいます」

「ええ。よろこんで。
カナひとりじゃ心配だったんで、ちょうどいいです」



 火野さんとリヒトくんの間に、静かな火花が散って見えた。