「あ、コラ! リヒト! 
オマエは、ほんと、失礼のカタマリみたいなヤツだな!」



 なんてやりとりをしてるリヒトくんと田村先生。

 わたしはドキドキしながら、火野さんの前に立った。



「鳥居さん。
あなたには伝える義務がありませて……」

 火野さんが、くいっと眼鏡を上げながら口をひらく。



「さきほど、あなたの母親が倒れました。
今は、御声病院で手当てを受けています」



 ……え?

 母親が、……倒れた?

 ……お母さんが⁉

 理解した瞬間、頭が真っ白になる。

 ふら、と体がよろけたのを支えてくれたのはリヒトくんだった。



「カナ、大丈夫か⁉」



 大丈夫じゃない!
 わたしは首をぶんぶんと降った。

 どうして倒れたの⁉

 病気⁉

 まさか、脳梗塞とか、心臓マヒ⁉



「ぐっ、げほっ、こほっ、げほげほっ!」



 声に出して問おうとして、首輪に首をしめつけられる。

 そうだ、わたし……、しゃべれないんだった。

 こんなにたいへんな時に、
 お母さんの容体を聞くことすらできない。

 その事実に打ちのめされる。



「カナ!」



 リヒトくんは、せきこむわたしの背を優しくさすってくれた。



「ほら、リヒト。
オマエへの説教はオワリだ。
魔女になんかかまわず、さっさと出て行け」




 冷たい声で、田村先生が退室をうながす。



「そんなワケにはいかないだろ!」



 リヒトくんの声は、職員室中にびりびりと響いた。