私、ついていけなくて、またポカンが止まりません。
 それで何か勘違いしたのか、朝比奈さんが次の行動に出る。

「あ、わたくしを信用出来ないとお考えですか? 問題ございません、わたくし、今夜のために一筆したためて参りましたの」

 制服の内ポケットから折り畳まれた一枚の白い紙を取り出す朝比奈さん。

「へ? いや……」

 と言いながらも、紙を手渡されて、あまりはっきりしない頭でそれを開く。
 そこには直筆と思われる綺麗な字が並んでいた。誓約書だ。

『わたくし朝比奈 蘭は約束を守れず、白鳥 雪を人間だと密告した場合、責任を取って白鳥 雪と結婚いたします』

 ――け、結婚……? 結婚! 私の意見は? というか、私、女なんですけどぉぉぉ?

「け、っこん?」

 私が口からもらした言葉にいち早く反応したのは晩くんだった。

「なんだ、これは……! こんなもん、破棄だ!」

 こちらに素早い動きでやってきて、私から紙をぶんどる。

「ああ! やめてください……!」

 ――一応、それ私の命を繋ぐ誓約書!

「ひぃっ」

 手を伸ばしたけれど、間に合わず、朝比奈さんの一筆はビリビリに破かれてしまった。
 誓約書が私の前でこの世に存在した時間、わずか数分。

「ぁぁ……」
「雪くん、大丈夫ですわ。何度でも書いてさしあげます」

 私が破れた紙を両手でかき集めていると、朝比奈さんが女神のように私に手を差し伸べてくれた。

「朝比奈さん……」

 もしかして、悪魔だけど、本当はいい人なのだろうか?

「もう持ってくんな。お前も真に受けるなよ」

 朝比奈さんの手を取ろうとしたところで間に晩くんが入り込んできた。
 彼女の代わりに私の手を取って、立たせる。

「あら」

 晩くんに遮られた朝比奈さんは私と晩くんを順番に手で指して両手でハートマークをつくった。