「ほう、上手く隠してんな」

 大きな手が私のメガネを取り去って、前髪を持ち上げる。

 変装をわざわざ暴くなんて悪趣味だ。

「見て楽しいですか?」

 ムッとした顔で言う。

 学園の教師はみんな、私が人間であることも女であることも知ってるわけで、だから、加賀美先生がこんなことをする理由が分からなかった。

「ああ、楽しいよ」

 意地悪な笑み。赤い瞳が燃えてる。
 ちょっと綺麗かもしれない、とか、そんな……。

「お前、俺と付き合うか?」

 この先生、思ったよりもクズ教師かもしれない。
 スタイルと顔が良いのが、また悪いところだ。
 私でなければ流されていたかも。
 でも、くっ、顔はいい。

「は、犯……」
「犯罪だってか? 俺に人間界のルールを押しつけられてもな」

 顔面の良さ攻撃を食らっている私に先生は鼻で笑った。
 ここで人間界のルールは通用しないらしい。
 なら自分の身は自分で守らなければ。

「付き合いませんからね? セクハラで理事長に言いつけますよ?」

 私は先生のスーツの胸ぐらを掴んではっきりと言った。
 目の前の赤い瞳が大きく見開かれる。

 しまった、ちょっとやり過ぎたかもしれない。

「ほう、面白い」

 ほら、なんか距離近いって。
 にやにや笑って、本当に物理的に魂取られちゃいそう。

「――合格だ」
「は?」

 私の心臓のドキドキが止まりそうになった。

 ――合格ってなんですか?