「俺はお前たちを信じてる」

 生徒会のメンバーしか入れない寮、そのエントランスに集められたオレたちに晩は言った。

「あいつのために、ずっと言わないでおこうと思っていたが、いま、またあいつが危機にある」

 晩の話している『あいつ』が雪のことを指していることはすぐに分かった。
 光も灯も分かってる。

「あいつは……」

 言葉に詰まる晩なんて初めて見た。
 悪魔らしくいつだって冷静で、冷たすぎるくらいの晩が言葉を探してる。

 静かな空間に息を吸う音が聞こえた。

「――……あいつは人間だ。A組の朝比奈がその秘密を知って、密告しようとしている」

 悩んだ末に口にした言葉。
 晩にしては珍しいその険しい表情が、ことの重大さを物語っていた。

「朝比奈は自分が俺と付き合うことと、あいつが生徒会に関わらないことを条件に密告を取りやめた」

 だから、雪はオレたちから離れたのか。

 オレはバカだ。
 雪が悩んでることにも気付かないで。

「だが、彼女は俺に飽きたらしい。次はお前たちを、と」

 複雑な表情で晩が唇を噛む。
 それから、オレたちを順番に見て

「頼む、力を貸してくれないか?」

 深く頭を下げた。
 晩が人に頼るなんて珍しい。
 それくらい雪を大切に思ってるってことだよな。

 オレだってそうだ。
 雪にいなくなってほしくない。

「もちろんだ。雪のためなら、オレだって」

 雪は男だけど、オレが守りたいんだ。
 正直に言うと惚れてる。
 素直な表情を見た瞬間から、ずっと。

「ボクだって、なんだってする」

 いつもは甘い顔してる灯もいまは凜々しい顔をしてる。

「僕も雪くんのためなら、この身を捧げるよ」

 光のこんな顔も初めて見た。
 天使の中の天使みたいなやつなのに、決心した顔は男らしい。

「礼を言う。――お前たちを信じてるぞ」

 もう一度そう言って、晩は寮の扉を開け放った。

 光、灯、オレと続いていく。
 夕方の光がまぶしい。

 ――雪が人間だとしても、俺は密告しねぇし、絶対に守ってみせる。